経営にデータを届けるために

経営者は、今の経営状況を正確に把握するために様々なデータを組み合わせて見る。
たとえば、経営環境の変化にいち早く対応するため、現場サイドでキャッチしている営業見込みや最新の予測値を把握しようとする。
また、業績に大きな影響を及ぼすような大型案件については、案件単位でその収支の推移と見通しに目を配る。
このように経営者は、会計上の数字だけではなく、上流の基幹業務データにも遡って現場の動きに注意を払っている。

経営者は数値に敏感である。
自分の感覚とズレたレポートが届けられると「これは間違っていないか?××分の取引が抜けているのでは?」とすぐに反応する。
IT部門側で実際に調査をしてみるとあれこれと抜けていることに気づき、その指摘が正しい場合も多い。そうならないためにも、提供したデータの意味や集計方法、収集経路について常に説明できるようにしておきたい。

経営者の要求に応えることは容易なことではないが、そのような準備ができていれば、指摘に対し不備や間違いを特定しすばやく対応できるはずだ。

 

ここにデータモデルを活用してはどうか?と考えている。
データモデルがあれば、経営者が求めるKPIとそれを生成するソースデータを、構造的な繋がりで表現することができる。
たとえば、収支を単純に見たいのであれば会計元帳を集計すれば十分だ。ただし、案件毎に深掘りして見たい場合は、会計元帳では案件番号を保持していないため、上流の基幹業務まで遡り幾つかのデータを組み合わせて見せる必要がある。
データモデルはこのようなデータ間の繋がりを緻密且つ俯瞰的に表現することが得意である。
また、データモデルで可視化することにより、現行の基幹システムが抱える課題も浮き彫りになる。上流の業務はそこで発生するデータが後続業務で利用されることを考えて設計されていないため、下流でデータを活用する際に問題化することが多い。
マスタデータに関する問題がその代表例と言える。たとえば、グループ横断で製品や組織、事業の損益を把握したい場合には、それぞれの集計軸に対応するコードが統一されていないと集計が困難を極めることになる。データモデルを通してこういった課題が共有されることは大変有意義に思う。

 

DMBOKでは、経営者が意思決定のために利用するデータをCDE(Critical Data Element)と定義している。
CDEは、そのデータの意味や品質に対する期待値を明らかにし、継続的に測定の上、問題があれば修復させなければならない。
この活動はKPIに限らず、それを生成するソースデータに対しても同様に行われるべきである。
経営者に正しいデータを迅速に届けるためにも、データモデルを利用したソースデータの可視化を手始めに、継続的な品質維持・改善活動のスキームを検討してみてほしい。