IoTのための社内データ標準時

センサデータには、ミリ秒単位で記録される精緻なデータが多くあります。IoTは、こうしたデータをネット経由ですばやく組み合わせることで、対象とするビジネス世界を可視化・分析し、効率よく装置やサービスをコントロールすることを目指します。最近は多くのコンセプト実証(PoC)のプロジェクトが実施され、成功事例も多く聞きます。今後は全社規模での実運用に取り組む企業が増えていくでしょう。
今回の記事では、全社的な取り組みの前に社内の「データ標準時」を定義することをおすすめします。

ふだん生活していて、時刻のズレに気づくことがありませんか。コンピュータであっても、ほうっておけば、次第に時刻はズレていきます。データに記録される時刻はコンピュータの時刻そのものなので、同時に発生したデータでも記録時刻がズレることがあります。
こうしたズレを補正する、技術的な仕組みもあります。たとえば遠隔地の別々のコンピュータでも、NTP(Network Time Protocol)サーバに接続できれば、時刻を同期できます。また、GPS受信機能を持つ時計やセンサは、GPS衛星の原子時計を基にして、時刻のズレを自動補正します。
ただ、環境によってはこうした補正の仕組みと連携できずに、個々のコンピュータの時刻がバラバラのままに残ってしまうことがあります。
特にIoTは、センサとそれを制御するコンピュータの数が多いために、時刻のズレが生まれやすくなります。こうした時刻のズレを考慮せずにデータを統合してしまうと、正しくデータ間の関係を分析し、装置やサービスのコントロールを行うのが難しくなります。
IoTの目的が「設備が稼働しているかどうかを1分単位で表示する」といった”分”単位以上の可視化なら、時刻ズレの影響はほとんど無いでしょう。しかし「複数機種のドローンを同期させ、アクロバティックに高速飛行させる」ような高度な制御を行うなら、ミリ秒のズレが事故につながります。

 

また、「IoT施策ははっきり決まらないけど、まずはセンサを設置してデータを貯めてみよう」という、IoTのためのデータレイク構築に取り組む企業や団体もあるようです。グローバルにデータを収集することもあるでしょう。そうするとデータの時刻が収集先の国毎のローカルタイムのまま保存されているなんてことが起こりがちです。データ統合時に、「どちらの国の時刻に合わせよう?」「この年の3月25日は夏時間?冬時間?」という混乱が起きてしまいます。

 

こうした混乱を避けるには、あらかじめ社内共通の時刻、「データ標準時」を定義しておくべきでしょう。データ収集する際に「データ標準時」に変換し、ズレの補正も実施しておけば、後から目的毎に変換処理をする手間を減らせます。
もしIoTの目的が絞り込めず社内標準時の定義が難しいなら、社内センサデータ毎にどのような時刻を使っているのか調査・定義し、だれもがすぐ分かるように社内のWikiやポータルで公開しておくといいでしょう。