保守業務の改善とデータマネジメント
日本の製造業は「モノの販売」から「サービスの提供」に比重を移し始めている。市場にモノが行き渡る一方、保守部品の販売や修理などビジネスとしては小口ながら長期に安定した収益をもたらしてくれる。多くの製造業は少し以前からそのことに気づき、保守業務の改善や強化に取り組み始めてきた。今回は保守業務改善を例にデータマネジメントを考えてみたい。
予防保守・計画保守への流れ
もともと保守業務は、業務改善やシステム化が十分に進んでいない分野である。特に、工場の生産設備、土木加工の建設機械、病院の医療機器などのような大型の製品は、その複雑さや専門性の高さなどから、メンテナンスには熟練した技術を要する。企業の中でも改善が進まなかった理由はこの辺に起因するのかもしれない。
そのような状況を打開するために、AIやIoT技術を活用した業務改善の取り組みが脚光を浴びている。保守対象の製品にセンサーを組み込み、そこから収集されるセンサーデータを監視し予防保守・計画保守に役立てよう、という取り組みがその一例である。例えば、機器に振動センサーを取り付けて、振動データを日々収集する。振動データの波形を解析することで、異常を検知することができる。その情報を基にして異常箇所を特定し、製品仕様と照らし合わせながら交換部品の手配や作業見積の作成、エンジニアの出張スケジュールの調整などを行う。このようにトラブルが発生する前に保守業務を計画的に行うことが可能で、既に予防保守ビジネスとして一定成果を上げている企業もある。
マスタデータの整備とデータ品質の問題
このような予防保守・計画保守を実現するためには、マスタデータの整備やデータ品質の確保が必須である。これまで、保守業務改善をテーマにしたデータマネジメント・プロジェクトをいくつか経験してきたが、これらが話題にのぼることも多かった。
その中でも特に多かったのが保守BOM(顧客に納入した製品の部品構成や加工仕様を蓄積したマスタデータ)のメンテナンス問題である。通常、製品毎に標準仕様が決められているが、実際に顧客に納入する製品にはオプション部品や特殊加工などといった顧客固有の仕様が沢山存在する。また、修理を行う度に部品構成も変更していく。交換部品や必要工具の手配を計画的に行うためにも、保守BOMを常に最新の情報に保つことが重要である。
それにも関わらず、多くの会社で保守BOMのメンテナンスが適切に行われていないのが実情だ。その理由の多くは、入力間違いや更新遅れ、更新漏れといったものである。なかには、システムへの入力を行わず、エクセルや台帳で情報を記入しているケースもある。事前に把握していた情報と異なるため、現地に赴いたエンジニアが部品や工具の再手配に追われることがしばしばあるとも聞く。
保守BOMの整備は保守業務の要である。マスタデータ構造の見直しや、データ品質の測定・クレンジングといったIT目線での施策に留まらず、データ入力の徹底や入力データの正確性確保について業務プロセス改善の一環として取り組むことが必要である。
今回は保守業務という限られた範囲でのデータマネジメントを紹介した。データマネジメントは必ずしもエンタープライズレベルの取組みでなくてもよい。狭い範囲の中でも業務オペレーションレベルまで具体的に考え、業務に貢献する取り組みが大切であると考える。