DAMAカンファレンスレポート ~海外のデータ品質有識者が登壇したADMC2019~

ADMC2019カンファレンスレポート

11月12日、DAMA日本支部主催による、Asian Data Management Conference 2019(ADMC2019)が開催された。『データクオリティ海外最前線』と題したデータ品質に主眼を置いたテーマに対し、100名を超える方が参加しており、非常に盛況であった。

※ADMC公式サイト:http://www.dama-japan.org/ADMC2019.html

イベントの前半では、海外のデータマネジメント専門家3名による講演が行われた。最初はDAMA Internationalの会長であるLoretta Mahon Smith 氏、次がデータ品質改善の教育・普及に努めているDan Myers 氏、最後はデータ品質の国際標準であるISO8000の開発グループを率いてきたTim King 氏が登壇された。各々データ品質の重要性や世界標準について具体例を交えながら説明をされており、初参加の筆者にも理解しやすく、刺激的な内容でもあった。

後半は、データマネジメント組織や人財、データマネジメントを推進するにはどうすればいいのか、なぜ標準化が必要かなどをテーマとしたパネルディスカッションが行われた。参加者から活発に質問が飛んでおり、その質疑応答からデータ品質に関わらず広くデータマネジメントを導入・推進するためのヒントを得ることもできた。今回のブログでは後半のパネルディスカッションについて、以下に筆者の視点で6つのトピックに分けて紹介していく。

1. ストーリーで経営陣を説得する

「日本企業は、トップダウンによるデータマネジメントの導入が難しいがどうすればよいか」という問いが、DAMA日本支部の林会長から講師陣に投げかけられた。この背景には、日本企業の経営陣もデータの重要性に気づいてはいるが、データマネジメントの必要性までは理解できておらず、そのための予算や人員の確保に消極的になりがちなことがある。これに対しては、経営陣にデータマネジメントの必要性を理解してもらうための「ストーリーを語る」という答えが出てきた。つまり、経営陣と話す機会がある度に、他社の事例や身近な出来事を例に根気強く分かりやすく伝える、ということだ。例えばDan氏は、扇風機を買いに行った際に店員の端末情報では在庫切れとなっていたが、実際に置き場へ行ったところその欲しい扇風機は存在していた、という身近な出来事を話した。そして、データ品質管理の不徹底により顧客の信用が失われ、売上の機会損失に繋がるというストーリーに繋げていた。

海外企業であってもトップの説得に画期的な方法は存在せず、具体的なストーリーを常々語るという日々の草の根運動が大切なようだ。

2. Small Startで始める

データマネジメントの導入はSmall Startが良い、とLoretta氏は説明していた。例えば今ある組織をベースに小さく始め、小さな成功を重ね、その実績を周囲に宣伝して知ってもらい、少しずつ味方を増やして活動を拡大していく。失敗したときは、痛みから学び、改善のループに取り入れて次に活かしていきましょう、と語っていた。最初から全社規模の完璧な体制構築と施策実行を目指すのではなく、小さな成功体験を積み重ねて認知させるという、急がば回れの精神が大切なのだろう。

3. ポリシー、役割とそのキャリアパスを明確にする

データマネジメントを拡大していくための要素として、Loretta氏は次の5つを挙げていた。

  • データマネジメントを担う人のキャリアパスを考え、役割分担と責任の明確化を行う
  • データマネジメントの正式な責任者であるデータオフィサーのポストを作る
  • これまでの成果を組織で共有する
  • データ戦略の意思決定に携わることができる組織を作る
  • データマネジメントを推進する際の基本方針やポリシーの制定を行う

データマネジメントの活動に関わる組織と人に対して、適切な権限と責任を与える必要があるようだ。

4. 好奇心とコミュニケーション力を持つ人材の確保

データマネジメントの推進に必要な人材として、次の5つの特性が求められると強調されていた。

  • データに興味があり、実際のデータを触ることを厭わない
  • 他者の気持ちに寄り添い、共感的なコミュニケーションができる
  • 組織の変革に積極的な考えを持っている
  • 企業の戦略策定や意思決定などに関わりたいという意欲
  • 常にオープンで好奇心があり、高い学習意欲を持っている

知識だけでなく、むしろ目標に向かって社内を巻き込んでいく人間性が重要なのだと感じた。

5. 適切なメンター役を見つける

データマネジメントの学習には時間がかかるので、直近では外部の専門家の力を借りて良いとDan氏は述べていた。ただし協力を依頼する際は、「適切なメンター役」になってくれる人に頼みなさい、とLoretta氏が警告していた。データマネジメントの悩み相談に乗りながら適切な助言や指導を行い、自社の人材育成を支援してくれる専門家ならいいが、そうではない人も多い。専門家は現場の声に耳を傾けて、組織が抱える問題や症状に適したアドバイスを提供するべきだと、Dan氏も同意していた。確かに、素晴らしいツールの導入を薦めてきても、真のニーズを満たさないことはよくある。机上だけの理想論的な助言は不要であり、ある程度時間をかけても現場に深く眠る本当の課題を引き出す役割がメンターに求められることなのだろう。

6. 避けては通れない「データの標準化」

Tim氏は、多くの企業でデータの整合性維持に多くの時間が割かれていることを指摘していた。またDan氏も、高報酬でデータサイエンティストを雇っても、データの前処理に作業時間の8割が費やされていると補足していた。データが標準化されていれば、その8割の時間を本来の分析・解析作業に充てられる。その結果生まれる発見は重要な意思決定の材料にもなり得るし、企業の成長戦略を支えることにもなるはずである。

最後に

データマネジメントの世界に入って3ヶ月ほど経つが、それ以前まではデータ品質が低いのは当たり前だと思っていた。当時は筆者も業績報告の際、データクレンジングに多くの時間を割いていた。これは、Tim氏やDan氏が「データの整合性維持や前処理に多くの時間が割かれている」と指摘したことと一致している。データマネジメントの概念を知らないと、本来なら不必要な作業自体も必要な仕事だという感覚に陥りがちだ。事実、私は陥っていた。もっと早くデータマネジメントという考えに出会いたかった、という悔しい気持ちがある。

そしてこれは私に限った話ではないと感じる。例えば、データサイエンティストの友人は、データの前処理の経験を積んでから分析業務の仕事に就けるのが当たり前だ、と言っていた。また、同業種の若手で集まった際も、データマネジメントの重要性はあまり認識されておらず、具体的な現場でのデータ処理方法に焦点が当たることが多い。やはり業界でもまだデータマネジメントの重要性・必要性が浸透しているとは思えない。しかしながら、この現状を覆すような画期的な方法は存在せず、「最初はSmall start」、「小さな体制で始め、実績を積んで拡大していくしかない」というLoretta氏の言葉を思い出す。そして、データマネジメントの必要性について説得力を増すためにも、講師陣が必要だと言っていた「ストーリー」を蓄積して伝えていくことがコンサルタントとしても重要だと考える。