データガバナンスの第一歩となる業務用語集の作成

はじめに

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業務用語集は、ビジネス用語集またはビジネスグロッサリーとも呼ばれます。本文ではDMBOK2日本語版に合わせて業務用語集に統一して記述したいと思います。

業務用語集はナレッジを格納し共有するためのベーシックなツールです。DMBOK2でもデータガバナンスを導入する上で、業務用語集の整備は優先度が高いアクティビティとして定義されています。

業務用語集はシステム開発プロジェクトにおける成果物として、しばしば作成されます。私がこれまで経験してきたプロジェクトにおいても、事業固有の専門用語や略語の説明など、一部を用語集として作成するケースはありましたが、そのほとんどは個々のプロジェクト内での利用に限定されていました。また、整備が十分に行き届いていないことも少なくありません。その要因として、例えば次のようなことが考えられます。

  • 業務用語集を新たに作成するには物理的な労力が掛かる。
  • IT部門で作成を試みるものの業務理解がさほど進んでいないため、挫折してしまう。
  • 組織間に範囲を広げてしまうと、異なる用語で同じ意味のものがあっても統一が難しいという新たな問題が生じる。

これらを踏まえて、業務用語集を効果的に作成し、利用するため、どのような点に注意すべきか考えてみます。

業務用語集を何に利用するか?

業務用語集を利用する主要目的は、用語が持つ業務上の概念に対する共通理解を促すことです。データ利活用やシステム構築における利用を想定した場合、次のような効果が期待できます。

<間違った意思決定の防止>

その用語の意味が正しく定義されていないと、データの誤用により誤った分析結果を導き出す恐れがあり、業績評価や経営判断へも間違った影響を与えてしまいます。正しい用語の定義とそれに紐付くデータに基づくことで、分析精度の向上につながります。

<データ連携ミスの防止>

業務理解が不十分だとシステム間のインターフェースで誤ったデータ項目を連携したり、データ加工仕様を誤ったりするような設計ミスが生じ、データの一貫性や正確性を損ないます。業務用語集を導入することで要件定義や設計段階での設計品質を上げることができます。

利用用途によって、業務用語集に何をどこまで定義するか違いがでるため、あらかじめ誰が何に利用するか明らかにしておき、それから作成に着手します。

用語として定義する範囲は?

業務用語集が対象にするのは、その組織における全ての業務となりますが、広範囲な業務領域に対して用語を整備するのは非常に時間がかかる活動です。そのため、概念データモデルの検討などデータの概念や構造の設計と平行して段階的に整備を進めます。まず対象となるのは、業務を遂行する上で必要となる人、物、金などのモノ(リソース)、業務で発生した出来事、つまり、コト(イベント)を表す用語です。これらは、エンティティ名やエンティティの主キー項目に登場します。従属項目は、省略するかあるいは優先度を下げます。また、データ利活用を行う際に集計の軸となる区分項目、導出元になる数量や金額項目も重要になります。このほか、意味が似通っており混同されやすいものも誤用を防止するため、留意しておく必要があります。

業務用語集にどこまで定義するのか?

組織によって、業務用語集の使い方に違いがあるため、利用目的に応じてどこまでの定義を用語集でカバーするか考慮します。例えば、業務部門のユーザーがデータ利活用を行う場合、業務用語集を検索し、扱うデータが分析のニーズに見合ったものであるか確認することが考えられます。そのため、データの内容を正しく理解できるよう、用語と意味のセットや略語、その他に同義語があるか、などが重要となります。またIT部門がシステム構築でこれを利用する場合、業務上の意味定義だけでなく、それがどの業務システムで発生し、どのような基準で算出されるものなのか、計算仕様を補足するものも重要になります。

誰が作成に関与するか?

業務用語集の作成には業務知識が不可欠であり業務側のデータスチュワードが用語の定義に責任を持つ必要があります。対象の業務とその領域のデータに関する知識を有することが求められますが、業務側に適任者がいない場合は、例えば長年業務に携わってきたIT部門の担当者であれば正しい用語の定義を行うことが可能でしょう。もし、システム開発プロジェクトで業務的な専門知識が少ないIT部門担当者が作成する場合には、業務部門が内容をレビューし、用語定義の品質を維持します。

ガバナンスする上での注意点

新規のシステム構築であれば、業務用語集に定義した用語をエンティティやデータ項目の設計時に使うようガバナンスすることを勧めます。ですが、データ利活用のために既存データを可視化する時など、既に稼働している業務システムのデータ項目を変更することが難しく、用語を統一できない場合があります。そのため、次のような方法で、標準用語と対応付けて管理できるようにしておきます。

  1. 業務用語集の標準用語に対して、異音同義語など類似する用語を併せて用語集に取り込む。
  2.  エンティティ定義書などのデータ設計ドキュメントに、該当する業務用語集の標準用語を併記する。

おわりに

業務用語集を作成し、利用できるようにするには時間とコストが掛かり、地道で長期的な取り組みが求められます。業務部門でデータを共有する場合はもちろん、IT部門と業務部門との間で認識齟齬を防止するためにも有益であり、正しくデータを定義することがデータの品質を左右します。データガバナンスの第一歩として改めて業務用語集を振り返るきっかけにしていただければと思います。