AIとデータマネジメントは相互補完の関係

生成AIの急速な普及が、多くの産業・分野に大きなインパクトを与えています。
私自身も、日々の業務の中で簡単な情報検索からレポートのチェックまで、さまざまな場面で生成AIを活用しており、その変化を強く実感しています。
では、データマネジメントの分野にはどのような影響があるのでしょうか。
現在さまざまな識者が見解を述べていますが、AIとデータマネジメントの関係性については、まだ確立した共通理解があるとは言い難いのが現状です。本稿では、両者の関係について改めて整理します。

生成AIに期待したアウトプットを出させるためのデータマネジメント

まず、「生成AIに期待したアウトプットを出させる」という視点でデータマネジメントを考えてみます。
その中でも、とくに重要性が指摘されているデータマネジメント施策がメタデータ管理です。
例えば、生成AIが参照するデータに、次のようなメタデータが付与されていたとします。

  • 情報源(作成者・情報提供者)は誰か
  • 情報の作成日・更新日はいつか

これらが付与されていることで、生成AIが情報の信頼性や最新性について判断ができるようになり、回答の質が安定します。
さらに、
“事業所/工場/生産拠点” のように意味的には同じだが表記が揺れる用語を、1つ1つの概念として紐づけて管理することも有効です。このような異なる言い方を一つに統合しておくことで、

  • 利用者によるプロンプトの表現のゆれ
  • 資料に表れる用語の使われ方の違い
  • 部署ごとの文化の違いによる呼び名のばらつき

があったとしても、生成AIが意図する情報を探し出し、期待するアウトプットを出してくれるようになります。

AIを活用したデータマネジメント

次に、「AIを活用したデータマネジメント」という視点について考えます。
先日、DAMA日本支部が主催する ADMC(Asian Data Management Conference)2025 が開催され、データモデリングの世界的権威である Len Silverston 氏 が登壇し、AIとデータモデルの関係について講演を行いました。Silverston 氏によれば、AIにデータモデルの草案を作成させることは必ずしも無意味ではなく、状況によっては実務でも十分活用できる可能性があるとのことです。
従来、データモデリングは

  • ビジネスドメインの深い理解
  • Key構造、正規化、パフォーマンス設計といった専門的技術

の両方を兼ね備えた熟練者のみが担える“職人技”とされてきました。「AIがデータモデルを書けるはずがない」と考えられてきたのも、この背景によるものです。しかし今回の講演は、この領域にもAI活用の可能性が見え始めていることを示しています。
ここであらためて、メタデータ管理についても考えてみます。メタデータの整備には、データモデリングと同様にビジネスドメインへの深い理解が不可欠であり、各エンティティやデータ項目を、特定の部署やシステムに依存しない標準化された用語で定義することが求められます。そこで注目されるのが AIの活用です。「メタデータ付与の負荷をAIに任せられないか」という発想のもと、一部のツールベンダは、すでにAIを用いたメタデータの自動生成に取り組んでいます。
AIは、例えば

  • そのテーブルはどのシステムで作られたかデータなのか
  • どのような項目を保持しているのか
  • 実際に入力されているデータ値の入力パターンやばらつきはどうか

といった情報をもとに、
「これは売上テーブルの可能性が高い」「このカラムは売上金額だろう」といった テーブル種別やカラム名の推論に活用できる可能性は大いにあり、今後の発展が期待されます。一方で、

  • 売上金額の厳密な定義
  • 単価や割引率を加味した計算式
  • その他業務上の運用ルール(返品取引をマイナスの売上で計上する、社内間取引でも売上が計上される、など)

など、ビジネス上の深い意味付けまでAIが完全に推論するのはまだ難しく、最終的な定義には人間のレビューが不可欠と考えられます。しかし、メタデータ整備には高度な専門知識と膨大な工数が求められ、多くの企業がリソース不足で挫折してきた歴史を踏まえると、AIが草案を作り、人間が仕上げるという役割分担によって、データマネジメントは着実に前進できると私は前向きに捉えています。

AIとデータマネジメントは相互補完の関係へ

生成AIで意図したアウトプットを出すには、信頼できるデータを見極めるためのメタデータ管理やデータ品質の確保が不可欠です。一方で、データマネジメントそのものもAIを活用することによって効率化が期待され、これまで熟練者の経験と知識に頼っていた領域にも変革が起こりつつあります。つまり、AIはデータマネジメントによって支えられ、同時にデータマネジメントもAIによって進化していくという構図が生まれると予想しています。両者は一方向的な主従関係ではなく、互いの価値を高め合う相互補完的な関係にあります。この視点が、AI時代にふさわしいデータマネジメントの新たな概念を形づくる一歩となるのではないでしょうか。