柔軟で迅速なデータ利活用を可能にするMDMシステム構築をサポート
~マスタデータの統合で、グループ経営強化を実現~
日本を代表する総合物流企業ロジスティードでは、基幹システムの刷新に合わせ、経理や人事など個別システムのマスタデータの統合、共通化に着手。Metafindコンサルティングとビジネスエンジニアリング*のコンサルティングチームのサポートによる「As-Is」の徹底的な分析とあるべき「To-Be」像の定義を経て、MDMシステムの本格稼働を実現した。同社の取り組みの狙い、IT部門と業務部門が足並みを揃えることで実現した実際の成果についてリポートする。
課題:
マスタデータはシステムごとに縦割りで管理されていたため、データ利活用時の負荷やデータ精度に課題があった。また、SAP ERP 6.0の保守は期限を迎えていたことから、グループKPI策定、デジタル監査、ESG経営への貢献も視野に入れた上で、マスタデータの在り方を考える必要があった。
ソリューション:
外部コンサルタントとして、業務部門、IT部門のどちらにも偏らない中立的な視点、知見やノウハウを提供。「As-Is」の徹底的な確認と課題抽出を実施し、関係者と課題や期待される効果を共有することで、マスタデータの統合に向けたアーキテクチャ、データモデル設計などを支援。
結果:
マスタデータの統合によって、正確・迅速なグループ実績の把握が可能になり、適切な組織や従業員マスタに基づいた予算や経費のためのデジタル監査体制も確立。さらに、複数のシステムで求められたマスタ更新作業を単一システム上で可能にし、マスタ更新の作業負荷を軽減。
個別システム用に作成されたマスタデータを統合
柔軟で迅速なデータの活用を目指す
LOGISTICSと、Exceed、Proceed、Succeed、そしてSpeedを融合させた言葉を社名として掲げるロジスティード(2023年4月1日に社名変更)は、日本を代表する総合物流企業として、2023年3月末現在、国内334か所、海外474か所を拠点に、顧客企業のサプライチェーンの物流業務をトータルに受託する3PL(サードパーティロジスティクス)事業、鉄道車両や産業機械などを運ぶ重量機工事業、航空機や船舶、鉄道、車両などの輸送プランから、顧客に最適な提案を行うフォワーディング事業などを展開している。
そんな同社が、2020年に取り組みを開始したのが、マスタデータ管理(MDM)システムの構築だ。経理や人事など複数のシステムでそれぞれに蓄積・利用されていたマスタデータをグループ内で統合し、いわば、攻めのDXである主要顧客別や業態別収益や営業所別ROIC、各種人員集計などといった正確・迅速なグループ実績把握と、守りのDXといえるデジタル監査体制の確立などにつなげることを狙いとしている。(図1)
同社IT基盤本部 ソリューション事業企画部 コーポレート基盤Gで部長補佐を務める渡辺修平氏は本プロジェクトを、「基幹システムであるSAP ERP 6.0の標準保守が2027年末に期限を迎えSAP S/4HANAに切り替えるのに対応するとともに、SAP上の経理システム、他のプラットフォームで稼働していた人事システムなど、個別のシステムで作成、活用されていたマスタデータを統合・共通化しようという試みです」と話す。
同社では、社内のスタッフに加え、Metafindコンサルティング、ビジネスエンジニアリングの両社によるコンサルティングチームにサポートを依頼し、2020年4月、MDMシステム構築をスタートした。「両社がコンサルティングチームとして、別部署で以前から取り組んでいた事業系システム群のデータ統合やデータ利活用基盤の構築をサポートしていたことも依頼の理由の一つです」と渡辺氏。両社が提供していたデータ利活用基盤全体のデータアーキテクチャ設計、データ構造の標準化などの知見、ノウハウは、基幹系システムにおけるMDMシステム構築に活かせるはずだという判断もあった。
「As-Is」の把握とあるべき「To-Be」像の定義を通じてMDMシステム構築のメリットを確認
経営陣の方針もあって、プロジェクトは、組織、従業員、取引先の3つのマスタデータを、グループ共通のマスタ管理システムで運用するという目標を掲げてスタートした。とはいえ、「例えば取引先マスタについては、D-U-N-S® Number(The Data Universal Numbering System)を既に利用していましたし、MDMシステムのために新たなマスタを作成する必要性を具体的にイメージするのは難しかったと思います」とプロジェクトメンバーの一人である財務戦略本部 経営サポート部 基幹システムG 部長補佐 細田裕一氏が言うように、 MDMシステム構築の具体的なタスクや成果をイメージすることは難しいのが現実だった。
そんな状況を考慮し、プロジェクトは、システムやデータ利活用の現状を再確認し、課題を可視化していくことからスタートした。(図2) 「当初は、コンサルティングチームとの週一回のミーティングを半年ほど継続的に実施し、当社システムの『As-Is』の確認を徹底的に行いました」と渡辺氏。現状のシステムやデータに関するデータフローやデータモデルを持ち寄って課題を分析し、求められるマスタデータのあり方を検討する。そうした中で見えてきたのは、マスタデータの統合によって導かれるメリットだった。
「As-Is」の確認と課題の抽出は、同社にとってのあるべき「To-Be」像の定義へとつながる。プロジェクトでは、グループ経営強化をコンセプトにグループKPIの策定やデジタル監査、ESG経営の実現などをテーマに掲げ、組織、従業員、取引先などのグループ統一コード策定から、グループMDMシステム構築までの手順を、徐々に明確化していく。コンサルティングチームのサポートは、グループ共通のゴールデンマスタを管理するためのアーキテクチャイメージやデータモデル、統一コードの策定支援などにとどまらず、人事や経理といった業務におけるマスタ策定の課題を解説したドキュメントの作成まで多岐にわたった。
「コンサルティングチームには、MDMシステム構築の道筋をつけることに加え、社内のリテラシー向上など、教育的な視点からプロジェクトに関わってもらえたこともメリットでした」(渡辺氏)。
横断的なデータ利活用が導く可能性
デジタル監査体制の確立にも期待
2021年8月、国内MDMシステム基盤が稼働。さまざまなデータをグループ内で横断的に活用するための環境が整った。「従来であれば、人事と経理など複数のシステムに関わるデータを利活用する場合、それぞれのシステムから抽出したデータを人が介在した形で統合したり、コード変換用のプログラムを走らせるなどしてデータを作成することがほとんどでした。MDMシステムが整備されたことで、こうしたデータの抽出や分析は飛躍的に効率化されました。データの精度も高まったと思います 」と渡辺氏。従来、複数のマスタの変更、確認など煩雑な作業が求められた顧客企業の口座変更などの際も、統合されたマスタデータを更新するだけで対応できたり、個社ごとに分かれていた社員マスタの統合で全社的なタレントマネジメントが可能になったりするなど、MDMシステム活用の可能性が実感できるようになった。また、集計データの粒度がより詳細化されたことに合わせて、従来の法人単位のレベルから、事業所単位の粒度での可視化がスピーディに対応できたことも成果だろう。
経理と人事のマスタデータが統合されたことは、デジタル監査体制の確立の動きにもつながっている。従来は、予算や経費の金額管理は経理で管理する組織マスタをベースに行われ、金額の承認は人事の組織マスタをベースにしていた。同じ組織でありながら、人事と経理それぞれのシステムで管理されている組織階層が微妙に異なっていたため、適切な承認者が設定できない等の問題が生じていた。「こうした問題を解消するために、今回のMDMで経理と人事のマスタを一本化することになりました。デジタル監査体制の確立の視点からも役立つ取り組みだと考えていますが、こうした発想は、MDMシステム導入以前は難しかったのではないでしょうか」(細田氏)。
IT部門と業務部門が連携した取り組みが
企業として成長するためのきっかけに
(図3)
2022年7月、同社では、MDMシステムをグローバルに展開する取り組みを開始した。海外グループ会社におけるグループガバナンス強化等を視野に、各社同一の基幹系システムを導入し、国内でのMDMシステム構築の取り組みをグローバルに展開する。2023年12月にマレーシアの事業会社でパイロットプロジェクトをスタートし、その後2024年4月をめどに、東アジア地域の各事業会社でMDMシステムを運用開始する予定だ。「海外事業会社の場合は、商習慣などの違いからくるローカルな要件が多いためにマスタの統合ができないという先入観があること、また、それぞれの事業会社ごとに運用している基幹システムが異なることなど、ハードルが高い部分がありますが、国内MDMシステムを基準にスピード感をもって進めています」と細田氏は言う。グローバルMDMシステムが稼働すれば、従来、日本の本社に依頼していたデータ利活用を現地で行ったり、グローバルで従業員マスタを利用する際に、各国の個人情報保護規制への対応業務が少なくなるといった可能性も期待できる。IT部門の負担は、さらに軽減されるはずだ。
今回のプロジェクトの成果は、社内のDX推進にも直結する。将来的にMDMシステム利用が加速すれば、IT部門を介さずに業務部門が自らMDMシステムにアクセスして必要なデータを活用することも可能になる。部門を問わずに頻繁に行われていたデータの変換などの作業が削減できるのもメリットだろう。
今回のプロジェクトが、こうした成果に結びつこうとしている要因について渡辺氏は、「IT部門だけでなく、トップダウンの経営判断、業務部門を含めたチーム構成で推進できたことがポイントでしょう」と言う。社内に知見がなかったデータマネジメントについてのナレッジの共有やスキルのトランスファーだけでなく、IT部門と業務部門それぞれの視点を中立的に提供したコンサルティングチームの役割は大きかったとのことだ。
「グローバルへの展開など、並行して取り組んでいる現状ですので、具体的な成果はまだこれからですが、当社が企業として成長する上で必要な取り組み、成長のきっかけになったプロジェクトだと考えています」(細田氏)。
会社概要
社名 | ロジスティード株式会社 |
本社 | 東京都中央区京橋2丁目9番2号 ロジスティードビル |
創業 | 1950年2月 |
資本金 | 3億1,000万円 |
グループ人員 | 46,755名 |
URL | https://www.logisteed.com/jp/ |