データ・ドリブン・マーケティング
昨年、「データ・ドリブン・マーケティング」という書籍が、マーケティング業界を中心に話題になった。
データ・ドリブン・マーケティングとは、端的に言えば、成果を表す指標やデータ解析を駆使してマーケティングする方法である。
この書籍の著者はマーク・ジェフリー氏、サブタイトルには「最低限知っておくべき15の指標」、帯には「アマゾン社員の教科書」とある。(https://www.diamond.co.jp/book/9784478039632.html)
日本では2017年4月に発売されているが、紹介されている事例等から2009年ごろに書かれていることがわかる。
とりわけ新しいことでもないが、マーケティングはデータ・ドリブンで扱われるべきテーマである。ただし、実施できている企業は少ない。
今回は、私の視点でこの書籍の要点やおもしろい箇所を紹介したい。
まずは、要点から。
マーケティング分野になぜ経営者が関心を示すのかと言えば、それは次のような理由だ
「売るための施策として有効だと考えてお金を使う反面、その半額も効果が出ていないと感じているからだ」
現実問題として、データで費用対効果を説明できる企業は少ない。
マーケティングのPDCAプロセスおよびマーケティング投資収益率に関する調査では、次のような結果が出ている。
- 調査参加企業 252社、年間マーケティング予算 総額530億ドル。
- 53%の企業は、マーケティング投資収益率、顧客生涯価値などの効果測定指標の目標値を設定していない。
- 73%の企業は、キャンペーンごとの目標と実績を照らし合わせるためのスコアカードを利用していない。
- 71%の企業では、キャンペーンの実施可否判定にあたり、エンタープライズ・データ・ウェアハウスやデータ分析を利用していない。
ほかにも多数の調査結果が述べられている。
要するに、課題は次の2点に集約されるようだ。
- マーケティングプロセスを標準化し、実施し、最適化すべきである。(しかし、実際はそうでない企業が6割~7割存在する。)
- データを駆使したマーケティングができるIT環境を整えるべきである。(しかし、実際はデータ・ドリブン・マーケティング用システム等が作られていない)
ちなみに、データ・ドリブン・マーケティング用のシステムとは、データ解析・予測などを特定目的のために実施するデータマートを指す。このほかにも、エンタープライズ・データ・ウェアハウスやオペレーショナルCRMシステム等は必要となる。
15のマーケティング指標として、おなじみの顧客満足度などが紹介されている。
また、インターネットの世界で有効な、クリック単価、トランザクションコンバージョン率、直帰率、口コミ増幅係数なども紹介されていて参考になる。
1つ1つの指標の説明は、一般的な内容である反面、取り上げている事例が具体的でおもしろい。アマゾン、ウォルマート、インテル、エールフランス、サントリー、コカ・コーラ、コンチネンタル航空、デュポン、ベストバイ、P&G、ナイキ、ナショナルオーストラリア銀行、日産自動車など業界も幅広い。
成功への道筋
データ・ドリブン・マーケティング成功への道筋を次のように読み取った。
1)15の指標を使って、マーケティング活動を可視化
データ化することによって、マーケティング活動の成果を理解・評価できるようになり、改善につながる下地を整える。
2)アジャイル・マーケティング・アプローチを導入
キャンペーンが終了してから効果を評価するといった従来のやりかたではなく、その最中に効果を測定し、臨機応変に対応する方法を導入する。従来と比較すると5倍のマーケティング効果が得られると言う。
3)解析マーケティングを導入
狙いは「適切なタイミングで、適切なターゲット顧客に、適切な商品を勧める」こと。
たとえば、無料の子育て雑誌に対して購読申込した人達に、赤ちゃんが歩き始めた時期を狙って「パンツ型オムツのサンプル」を提供する。(P&Gの事例)
こういったマーケティングを実現するためには、データ解析によって対象者のほしい物とタイミングを推定することが必要となる。データ解析の典型的な手法には、傾向分析・アソシエーション分析・決定木分析の3種類がある。これによって、さらに5倍のマーケティング効果があると言う。
そのほかのトピックス
ここからは書籍の要点というよりも、私がおもしろいと感じたトピックスを紹介する。
1)複数媒体を組み合わせた複合広告の時代
もはやポスターやテレビでの単純広告の時代ではなくなった。
ポルシェの事例では、ダイレクトメールでWebに誘導し、Web上で色なしのガブリエル(新車)に対して自分好みの色を付けさせ、そこからできるポスターを作成者に提供する。「この企画おもしろいよ、こんな色つけちゃった…」を友人に拡散させる。
このように、リアルとネットをうまく組み合わせている。
2)黄金指標は顧客満足度
ネットの時代であっても、やはり重要なのは顧客満足度。
「友人や同僚にこの商品・サービスを勧めたいと思いますか?」の質問が有効。
3)口コミ増幅係数
顧客満足度のSNS版進化形が口コミ増幅係数(以下の数式)
{(広告が直接クリックされた数)
+(友人へのシェアから発生したクリック数)}
÷(広告が直接クリックされた数)
4)リスティング広告は「ことば」を売るビジネス
インターネット検索の46%は、商品やサービスの購入目的である。具体的なメーカ名や商品名で検索することもあるが、一般的な単語を使うこともある。たとえば、「懐石料理」「ケーキ バイキング」「データマネジメント」など。
ご存知のように、リスティング広告とはGoogleやYahooなどで対象の単語を検索したとき、検索結果リストの上位に自社のホームページリンクを表示させること。GoogleやYahooなどは、検索されそうな「ことば」に値段をつけて売っている。
製品やサービスを売るのと違い、「ことば」には原価がかからず、時代とともに変化するので、旨味のあるビジネスと言える。
5)アトリビューション分析
自社の商品やサービスを購入した最後のクリックを分析するだけは、広告の効果を正しく判断できない。つまり、そこにたどり着くまでの経緯が重要である。
SNSに登録されている特定グループの人たちを、どのように自分のサイトに誘導できるかの「シナリオ」を設計する必要がある。そのために、アトリビューション分析を行い、有効なクリックや経路を明らかにする。
まとめ
15のマーケティング指標を学び、これらを使うことの有効性は理解できた。
データ・ドリブン・マーケティングは、関係するすべての活動をデータに置き換えて理解・評価するところが要点である。そのためには、指標の意味を深く知ることも大切だが、マーケティング活動そのものを観測可能な形で設計することが、もっと大切だ。
私の願いは、情報システム部門の人たちが、マーケティングにおけるデータ活用のあり方を知り、業務改善に貢献することだ。
データ活用を推進する役割の人たちは、ぜひこの書籍を読んでみてほしい。