意思決定バイアス2 アンカリング効果

前回のヒューリスティックに続き意思決定を危うくする要因に迫りたい。
今回はアンカリング効果を取り上げる。
アンカリング効果とは、何らかの推定や見積もりの際に、先に提示された数値(アンカー)により認識や判断が影響されることである。

アンカリング効果は、生活の中のいたるところで発生している。
たとえば、産地の異なる複数種類の苺がスーパーにならんでいたとしよう。
1パック500円の苺と700円の苺では、「700円の方がおいしいだろう」と認識してしまう。
実際のところ、値段の差がおいしさの差を表しているわけでもないのであるが・・・。

ビジネスの世界では、アンカーの提示は1つの武器である。先制攻撃で交渉を有利に進めることも可能となる。
たとえば、映画の1シーンで物の売買価格を交渉している場面を思い浮かべてみよう。
主人公(インディ・ジョーンズ)が冒険の途中で立ち寄ることになる市場でのやりとりだ。
売り手が「100ギニーなら売ろう」と言う。
買い手は「それは高い!80ギニーなら買う」と言う。
お互いに歩み寄って、最終的には中間の90ギニーで売買が成立する。
映画でなくても、どこにでもありそうな光景である。

同じ場面について、アンカリング効果を知っている売り手がどのように対処するか想定してみる。最初から値切られる事を前提としている売り手は、アンカーとして本来より高めの価格を提示する。
売り手は100ギニー手に入れたいと考え、売値として120ギニーを提示する。
買い手は「それは高い!80ギニーなら買う」と言う。
お互いが歩み寄って、最終的には中間の100ギニーで売買が成立する。
こうすれば、売りたい額を正直に提示して90ギニーで決着するよりも10ギニー得することになる。
買い手は、売り手のアンカーに意思決定がゆがめられたことになる。

ところで、もう15年以上前のことになるが、次のような場面に遭遇したことがある。
情報システム部門の購買担当者が、IT系のツールを買うための交渉で
「さて、とりあえず定価の半額から始めましょうか」と言ったのだ。
つまり、「定価からいくら値引きできますか?」ではなく
「定価の半額からいくら値引きできますか?」と交渉を始めたのである。
これには大いに驚かされた。
なぜ、このような交渉ができたかと言えば、
売り手のアンカーに引きずられないだけの情報を買い手が入手していたからだ。
他社の購入価格を何らかの手段で調査し知っていたのだから、アンカーに惑わされることもなかったわけである。

価格交渉の場面で使われるアンカリングに対しては、事前の調査によって客観的な情報を入手しておくことによって、意思決定のゆがみを防止できる。
データマネジメントが効果を発揮するのは、このような場合である。

アンカリング効果の研究では、でたらめなアンカーであっても影響されてしまうことがわかっている。客観的な事実をデータとして集め意思決定に使えば、相手側のアンカリング攻撃に対処することが可能となる。