データ利活用の推進に必要とされるスキルとは(1)

データマネジメントの目的の一つに、企業内のデータ資産を有効に活用し事業に役立てることがあげられます。
最近は、データ利活用を全社的に活性化させるために、企業内にデータマネジメント推進組織を設置するケースも随分増えてきました。
そこで今回は、そのような推進組織に必要される知識やスキルについて取り上げていきたいと思います。

まず、知識やスキルを説明する前提として、データマネジメント推進組織の役割を以下のように定義することにします。

  1. 事業部門に向けたデータ利活用の支援
  2. データ統合基盤の構築
  3. データ利活用の統制

次に、この役割に応じた活動内容を具体化し、そのなかで必要とされる知識やスキルを考えてみたいと思います。

1.事業部門に向けたデータ利活用の支援

データマネジメント推進組織は、データ利活用を行う事業部門に対してさまざまな支援を行っていくべきです。
間接的な支援、もしくは直接的な支援として、具体的には次のような内容を想定します。

  • 企業内のデータ資産を可視化し事業部門の問合せや要望に応える
  • または、彼らの業務改善に有効な情報を発信する
  • 事業部門にデータ利活用を基にした業務改善提案を行う

これらの活動を行うためにはさまざまな知識やスキルが必要です。
そのなかでも特に重要と思われる業務知識、業務分析力について取り上げたいと思います。

「業務知識」

事業部門に向けてデータ資産の情報を提供するためには、ITの言葉ではなく業務上の言葉でデータを語らなくてはなりません。
そのためにも、現行の業務やその中で発生するデータを意味的に理解することが必須となります。
また最近の事業部門は、組織や業務を横断した業務課題を抱えていることが多いため、彼らのニーズも複数の業務領域に跨って統合されたデータを求める傾向にあります。一般的には、特定の業務領域にのみ明るい人が多いように思います。しかしデータマネジメント推進組織の担当者であれば、既に知っている業務領域を強みにしつつ、他の業務も含めて幅広い業務知識が身についていることが望まれています。

「業務分析スキル」

情報提供のレベルから一歩踏み込んで、特定の事業部門に対して業務改善提案を行うことも重要です。
ただしこれを行うには、業務知識に加え、業務分析という少し高度なスキルが必要となります。
業務分析スキルとは、現行業務を分析し問題点を特定できることや、その問題点に対する解決策として幾つかの仮説を考え検証できるスキルを指します。時にはマーケティング理論やバランススコアカードのようなフレームワークを理解して利用することも求められます。
よって業務知識の習得に比べるとかなりハードルは高いと言えるでしょう。
ただし、このスキルを身につけて事業部門に業務改善提案ができれば、データマネジメント推進組織の存在価値は大いに高まります。

2.データ統合基盤の構築

データ統合基盤を構築すれば、蓄積したデータを複数のプロジェクトが利用することができるため、利活用プロジェクトの早期化につながります。
またデータを上手く統合することでデータの再利用を高めることにもなり、開発生産性を高めることも出来ます。
データ統合基盤の構築は、具体的には次のような活動を行います。

  • 社内外のシステムからデータを収集しデータ統合基盤に蓄積する
  • 収集したデータの標準化や名寄せ・クレンジングを行う

これらの活動を行う上で必要なスキルは次の通りです。

「エンジニアリングスキル」

エンジニアリングスキルとは、データの収集や加工、蓄積に関連したITの設計・開発スキルを指します。データマネジメント組織はIT部門の担当者を中心に発足しているケースが多いことから、このスキルは既に持ち合わせているかもしれません。
しかし、最近のデータ利活用では、従来型の構造データばかりでなく、画像や音声、センサーデータのようないわゆる非構造データを扱うケースも増えてきました。
こういったデータの収集や蓄積には最新テクノロジーの知識も必要です。また、先に述べたデータ資産の可視化に関連し、データカタログ環境を構築することも考えなくてはなりません。
このため一部の担当者には、データカタログ関連の製品やツール知識、環境構築技術の習得が求められます。

「データの標準化や整備スキル」

収集したデータには標準化が必要です。なぜなら同じデータでも組織や業務を跨いで収集したデータは、名称や構造がバラバラな場合がよくあるからです。これらのデータを横並びで比較したり、集計したりするには、バラバラなデータを1つのデータ構造に統合できなければなりません。
この作業を標準化と呼びます。
この作業を行うためには、一見異なるように見えるデータ同士を同じ意味で括る技術が必要です。
また、収集したデータには欠損や間違い、または重複したレコードを含む場合もあります。このままではデータ利活用ができないため、データの除去やクレンジング、名寄せといった作業を行い、収集したデータを整備します。
データの標準化や整備には、データ本来の姿を理解していなければなりません。そのため、この作業にも業務知識が求められます。
データの標準化や整備は地道で大変な作業です。
しかしこの作業を行うことで、データ利活用のたびデータの変換や加工処理を行うことから解放され、利活用の生産性を高めることが可能となります。

今回はここまでとします。
次回は「3.データ利活用の統制」の観点から知識やスキルを説明するとともに、最後に全体の総括を行いたいと思います。