『データ駆動型企業』から学ぶ その2

前回に引き続き「データ駆動型企業」から学ぶ。今回は、筆者2人の見識やデータ駆動型企業を実現する上での要点を取り上げる。私が読んでいて興味を持ったキーワードまたは文章を紹介し、私なりの解説をその後に記述する。書籍の中で登場した言葉は「」で囲む。

1. 「階層化データ・アーキテクチャ」

DWHやデータレイクのような情報系システムの構造を「階層化データ・アーキテクチャ」を使って可視化している。次のとおりである。

「レベル0:ステージング    1:1ソースシステム

 レベル1:統合        最も低い粒度での統合モデル

 レベル2:予測        重要業績評価指標(KPI)

 レベル3:アグリゲーション  ビジネスユニット固有のロールアップ

 レベル4:プレゼンテーション アプリケーション固有のビュー

 レベル5:データ・ラボ    ビジュアル・サンドボックス&プロトタイプ」

一般のユーザはレベル4又は5を使うことになる。ビジネスアナリストやデータサイエンティストなどの利用者タイプごとに、どこまでの階層を使うことになるかを記述している。また、レベル0は「スタンドアローンのデータレイクと同じではない」と説明されている。クラウド環境のように膨大なアクセス量と可変のリソースコントロールが可能な場所にデータレイクを置くべき(と言っていると思う)

2. 「テクノロジーの急成長とデータの爆発的増加が、いまや 大企業の本質を変えつつあること、さらには、アナリティクス能力の成熟が企業の存続に重要であることもわかってきた」

筆者たちの課題認識が表れる文章と思い取り上げた。大企業における業務(通常のオペレーションから上層部の意思決定まで)が根本から変わろうとしている時代である。

3. 「真のアジリティは、サイロの破壊を必要とする」

たとえば、すべての顧客タッチポイントデータを統合したいと思った時、障害になるのはソースデータを持つシステムが異なり、データの意味や表現形式が異なることだ。新たなインサイトを得たいと思った時、ただちにデータ統合できる状態でなければ、ビジネスをアジリティにすることなどできない。見方を変えれば、データガバナンスが重要ということを主張している言葉でもある。

4. 「アジリティを装ったカオス」

書籍の中では中堅のデータサイエンティストがIT部門の対応が遅いために自分でデータマートを構築する話が書かれている。構築したデータマートを使って有用だと思われるインサイトを次々と発見したかに見えたが、実際は違っている。正しいと思われたデータの品質が悪く結局は業務上使えないカオスをつくっただけだった。「データマートが20倍以上の不要な重複を生み出し、その6割がズレているのを実際に見たことがある」といった記述もある。データマートをアジャイルに構築するにしても、標準化されたデータが必要である。

5. 「アナリティクス・オン・アナリティクス」

アナリティクスに関してアジャイルになるためのセルフサービス環境は、単にセルフサービスを支援するのみならず、それ自身の管理も必要となる。すなわち、データアナリストが試行錯誤した経過や成功に至った方法を分析し、再現するためのメカニズムを保持する。「社員がデータ・ラボで作業しているときに、目立たない方法によって、リアルタイムで発生するすべてのインタラクションのログを残し、リプレイできなければならない。さらに、あとからそのログを検索し、どの段階で重要な決定が行われ、インサイトが得られたのかを検討できなければならない」とある。

6. 「アナリティクス指導者評議会」

アナリティクスに関する課題や優先事項などについて話し合い、解決・改善する最上位組織のこと。業務課題の効果と直接結びついたアナリティクスを推進する上で重要である。DMBOK2にはガバナンス評議会やデータガバナンスオフィスなど、ガバナンス視点の組織が説明されているが、このような業務課題と直結する組織構造は説明されていない。デジタルトランスフォーメーションを成功させるには、このようなアナリティクスに重点を置いた組織構造が必要と思い紹介した。

今後は業務変革に責任を持つCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)とデータガバナンスやデータの維持管理に責任を持つCDO(チーフ・データ・オフィサー)を設置するダブルCDO体制の企業も増えてくるだろう。

第2部のまとめ

これまで2回のブログを通して紹介した内容は、データ駆動型企業にとって必要なプラットフォームや組織構造の特徴である。これからの時代は、データから得られるインサイトが事業と業務のあり方を変えていく。結果として、好むと好まざるとにかかわらず、全社員とデータの関わり方も変化していくだろう。

これまでに紹介したキーワードは、ほんの一部である。本書には「データ・リスニング」や「アナリティクス・オン・アルゴリズム」など紹介したいキーワードや文章がまだまだ沢山存在する。データマネジメントに関わる新たな視点を得たい皆様には、ぜひご一読をお勧めする。