データマネジメントの実態と最新動向2024を読んで(後編)
今年最初のブログは、前回に引き続き、書籍「データマネジメントの実態と最新動向2024(インプレス社)」の調査結果についての考察をお届けします。今回の対象は、「メタデータ管理」「データモデリング」「人材・組織」の3つの領域です。調査結果を要約しつつ、今後の見通しや想定される課題についてコメントします。
メタデータ管理
~メタデータによるメリットを期待する企業は多い。一方で、実際にメタデータを整備できている企業は3割弱。~
(資料2.3.3「メタデータにより得られる効果」、2.3.4「メタデータの整備状況」より筆者要約)
昨今、データの利活用が進展し、多種多様なデータを不特定多数の人が扱うようになりました。その結果、データの意味を知りたいというニーズが高まり、メタデータの必要性が増してきています。今回の調査では、5割強の企業が、メタデータ整備の実施有無に関わらず、メタデータにより得られる効果の一つとして「データ分析・活用がし易くなる」ことを挙げています(本書2.3.3「メタデータにより得られる効果」より)。
しかし、実際には全体の3割弱の企業しかメタデータを整備できていないようです。これはどうしてでしょうか。その一因として、データ利活用に関わらない人にとっては、メタデータ整備に取り組む意義が感じられず、企業全体でコンセンサスが取れないことが考えられます。例えば、データ利活用者側からすると、どこにどのようなデータが存在するのか、またそれは業務的にどのような意味を持つのかなどのビジネスメタデータがないと分析に取り掛かれません。このような情報を定義する際は、データをよく理解している業務部門(データのオーナ部門)の協力が欠かせません。しかし、そのような業務部門が必ずしもデータを利活用するわけではないため、他部門のために時間を割いてまで作業するメリットがあまり感じられないこともあり、協力を得られず整備が進まないと推測されます。 メタデータ管理には、メタデータを定義する業務部門、それを管理・運用する部門など、複数部門の連携が欠かせません。全社的にメタデータを管理する重要性やメリットなどを伝え、理解を得ていくところから始めていくことで、各部門の協力も得やすくなるのではないでしょうか。
データモデリング
~データモデリングの実施企業は2割弱。パッケージやSaaS製品の利用に伴いモデリングの必要性を感じていない企業も存在する。~
(資料2.4.3 「データモデリングの実施状況」より筆者要約)
データモデリングはデータマネジメントの要であるにも関わらず、実施している企業は2割弱という残念な結果でした。実施状況が分からないと答えた1割の企業を除き、全体の約7割がモデリングを実施していないとの回答でした。その理由として、一部の企業はパッケージシステムやSaaS製品を利用しているためモデリングを実施する必要がないと回答しています。今回はこの回答への提言を述べたいと思います。
近年、パッケージシステムやSaaSを業務システムとして利用する流れが加速しています。一方で、システムを横断してデータを収集し、分析したいというデータ利活用のニーズも増えてきています。異なるシステムから連携されるデータを一か所に収集・蓄積し、いつでも使えるようにするためには、同じ意味のデータを同じエンティティで管理したり、分析に使用するコードやデータ項目を合わせたりしておく必要があります。そのためには、データモデリングによる、データの標準化が欠かせません。データモデリングと聞くと、業務システム開発・保守のために作成するものというイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、データ利活用のためのデータ収集・蓄積基盤構築においても、重要な役割を果たします。
人材・組織
~CDOが専任で任命されている企業は1割弱。兼任を含めても2割に満たない。~
(資料 2.5.1 「CDO(Chief Data Officer)の任命状況」より筆者要約)
CDO1が専任あるいは兼任で設置されている企業は全体の2割弱(16%)という結果でした。
この結果を世界の水準(PwCの調査結果 2)と比較してみると、日本企業のCDO設置率は、やや劣っているものの著しく低いわけではないことが分かりました。
CDOは、全社のデータ戦略を策定し、それを実現するためのデータマネジメントやデータガバナンスの実行責任を負う最高責任者です。データマネジメントは企業全体の活動として推進されるべきであり、その成功においてCDOは欠かせない役割を果たします。(CDOの役割については、用語集または過去ブログをご参照ください。)
一方で、CDOを設置するメリットについては明確に説明することが難しく、社内で十分な理解を得られないことが、CDO設置率の伸び悩みに繋がっていると考えられます。データマネジメントの活動は、それを推進する責任者がいないと、活動自体が認識されず、形骸化してしまう可能性が非常に高いです。その結果、データマネジメントが進まず、社員のデータリテラシーも向上しないままで、活動の成果を得ることができません。このような状況を未然に防ぐためにも、より多くの企業でCDOの役割やメリットが理解され、CDOを筆頭にデータマネジメントが企業全体の活動として推進されることを期待しています。
本書籍の調査結果からは、各企業でのデータマネジメント活動は依然として多くの課題が残っており、まだまだ道半ばであることが見えてきました。技術の発展や新しいサービスの登場など、変化の激しい時代においては、データ資産を有効的に活用し、企業の成長に貢献してくことがより一層求められています。そのためにも、各企業がデータマネジメントに対する理解をより一層深め、積極的に取り組むことが求められると思います。
本書籍には、企業におけるデータマネジメントの取り組み状況や関連する製品・サービスの動向など、非常に有益な情報が含まれています。皆さまもぜひご参考にしてみてください。