意外と知らない?データガバナンスの定着に必要な要素とは

データガバナンスを組織に定着させるには:

昨今、データ駆動型経営や生成AIの活用が企業で広がるにつれ、「データは資産である」という考え方が定着してきたように感じます。これに伴い「データガバナンス」という言葉を目にする機会も増えました。しかし残念ながら、メタデータ管理ツールの導入やセキュリティが担保されたクラウド環境への移行が「データガバナンス」そのものであると解釈されていることも多く見受けられます。

DMBOK2の英語版では、データガバナンスの世界的権威であるJohn Ladley氏が、“data governance is about ‘Doing the right things”(筆者訳:データガバナンスは正しいことを行うこと)と説明しています。(DAMA DMBOK 2nd Edition P.533)
この“正しいこと”とは何を指すのでしょうか?ガバナンスという言葉から、法規制やポリシー、ルール、倫理を遵守することが思い浮かぶのではないでしょうか。もちろんこれらも「正しいこと」ですが、それだけではありません。それらを遵守し、さらに、データから価値を生み出すことができるようにする行動を「正しいこと」と定義していると筆者は考えています。
そして、この行動を組織に定着させるためには、データの観点で組織が最終的に目指す「ビジョン」や、そこにたどり着くための「戦略」を示し、実際に戦略を実行する際の障害や抵抗を取り除くために「チェンジマネジメント」に取り組むことが求められます。
今回はこれらの要素について海外専門家の知見も交えつつ、筆者なりの考えを述べていきます。

データガバナンス定着に必要な要素①:ビジョン

John Ladley氏は自身の著書の中で、データガバナンスにおけるビジョンの重要性について、次のように語っています。

Change does not happen among humans without some view of the big picture. This is your goal for the vision phase.

筆者訳:人間同士の間で変化を起こすには、目指すべき全体像が不可欠である。これがビジョンフェーズにおける最終ゴールとなる。

John, 2012, Data Governance: How to Design, Deploy, and Sustain an Effective Data Governance Program 2nd Edition, P.70

データガバナンスの導入により何が実現されるのか?実施すると自分たちにどんな良いことがあるのか?といったビジョンやメリットも説明して納得してもらわないと、中々受け入れてもらえません。
こうしたビジョンが組織に浸透していないと、現場や経営層にとってデータガバナンスの重要性が十分に理解されず、データマネジメントやデータガバナンスの施策への支持やリソースを得ることが難しくなります。その結果、取り組みが限定的なものとなり、組織全体への展開が進まなくなる恐れがあります。
筆者がデータガバナンス活動のご支援をする際も、ビジョンを丁寧に各組織や関係者に説明するかどうかで、組織全体へのデータガバナンスのルールや監視統制活動の定着が左右されると感じています。

データガバナンス定着に必要な要素②:データ戦略

ビジョンを実現するには、データ戦略が欠かせません。データ戦略とは、経営の中長期戦略などビジネス側のビジョンと整合性を取りながら、データの観点からそれらの実現のために必要なデータマネジメントやデータガバナンスの施策を検討し、限られたリソースを有効活用するために優先順位をつけて実行計画を立案することを指します。

John Ladley氏は、組織の戦略とデータ戦略の整合性を図る重要性について以下のような文章で表現しています。

the number two reason to fail at DG is to not do anything to benefit the organization, in terms of revenue, savings, expansion, risk management, etc.

筆者訳:DG(データガバナンス)で失敗する2番目の理由は、収益、コスト削減、拡大、リスク管理などの面で、組織に利益をもたらすようなことを何もしないことである。

John, 2012, Data Governance: How to Design, Deploy, and Sustain an Effective Data Governance Program 2nd Edition, P.116

つまり、データマネジメントやデータガバナンスは、組織に何らかの利益をもたらし、役に立つ活動でなければ意味がないのです。
データ戦略を定めずに施策を進めても、ビジネス側のビジョンと結びつかず、ツールの導入やデータ統合基盤の構築が目的化し、結果として無駄な投資を繰り返してしまうといったリスクが高まります。
データ戦略の立案については、別のブログ「海外データマネジメント専門家から学ぶData Strategy(データ戦略)」に詳しく記載しておりますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。

データガバナンス定着に必要な要素③:チェンジマネジメント

データガバナンスの導入時には、新しいルールやプロセスに従って業務を行う必要が出てきます。組織はこうした新たな変化に対し抵抗を示すことが多いため、それらを乗り越えながら定着させていくためには、チェンジマネジメントが必要になります。

John Ladley氏は、チェンジマネジメントの重要性について以下のように語っています。

Changes of any sort – even though they may be justified in economic or technological terms – finally succeed or fail on the basis of whether the people affected do things differently.

筆者訳:どんな種類の変化であれ(それが経済的または技術的な観点から正当化されるものであっても)最終的に成功するか失敗するかは、影響を受ける人々がこれまでと異なる行動を取れるかどうかによって決まる。

John, 2012, Data Governance: How to Design, Deploy, and Sustain an Effective Data Governance Program 2nd Edition, P.230

チェンジマネジメントとしては、組織(に属する人)の抵抗を乗り越えるためにビジョンを示して理解を得ること、組織が納得して行動できるように適切にフォローすること、加えて、強烈なリーダーシップと経営者の支援が必要になります。

ビジョンについては先に述べているためここでは割愛しますが、適切なフォローとは、データガバナンスの導入により具体的に業務がどう変わるかの説明、データガバナンスおよびデータマネジメントのリテラシー教育の実施、データガバナンス活動の実績や効果の周知などを指します。こうしたフォローが不足すると、データガバナンスの具体的な取り組みや意義を十分に理解できず、主体的に取り組む意識が薄れてしまいます。その結果、データガバナンスの取り組みが形骸化し、組織全体に定着させることが難しくなります。
リーダーシップと、経営層からの支援の必要性については、DMBOK2の英語版でも、チェンジマネジメントで犯す8つの過ちの中で以下のように述べています。

“Kotter identifies that major change is almost impossible without the active support from the head of the organization and without a coalition of other leaders coming together to guide the change. … Without commitment from top leaders, short-term self-interest will outweigh the argument for the long-term benefits of better governance.

筆者訳:組織の幹部からの積極的な支持や、変革を主導するリーダーたちの連帯なしでは、大きな変革はほとんど不可能だとコッターは言う。トップリーダーからのコミットメントがないとどうなるか。より優れたガバナンスによる長期的な恩恵を語るよりも短期的な自己利益の方が優先されてしまうだろう。

DAMA DMBOK 2nd Edition P.544

経営層からの支援が欠如すれば、データガバナンスの取り組みは組織全体の優先課題として認識されず、短期的な業務の方が重視されがちになります。その結果、データガバナンスの施策が後回しにされ、組織としての変革が進まなくなる恐れがあります。

データガバナンスを実現するために:

データガバナンスを組織に定着させるためには、IT部門・業務部門問わず、本来は組織内のすべての方の協力が欠かせません。
そのためには、ビジョンに沿ったデータ戦略を策定し、組織の抵抗を減らし行動を変えてもらうために、チェンジマネジメントに取り組むことが重要になります。 「正しいこと」(=ルールや規制などを遵守し、データから価値を生み出す活動)の実現には、これらは避けて通れない道です。
弊社の教育コースでは、ビジョンに沿ったデータ戦略の立案方法から、データガバナンスの導入までのステップを丁寧に説明していますので、ご興味お持ちの方はこの機会に是非受講してみてください。

データガバナンススキーム構築コース

データガバナンスサービス