データガバナンス
データガバナンスとデータマネジメントを混同している発言や情報発信が最近目につくようになった。憂慮すべきことである。
このような情報発信に惑わされないためにも、DMBOK2に立ち戻ってデータガバナンスを正しく理解しよう。
データガバナンスを理解するポイントを、DMBOK2(データマネジメント知識体系ガイド第二版 (2018). 日経BP社)を引用しながら説明する。
具体的なイメージを伝えるために、ナレッジエリアの1つであるリファレンス&マスタデータを取り上げる。
ガバナンス(governance)の中心にある言葉は「統治する(govern)」である。データガバナンスは政治におけるガバナンスの観点から理解できる。立法と同等の機能(ポリシー、規定、エンタープライズ・データアーキテクチャを定義する)、司法と同等の機能(課題管理と報告)、行政機能(保護とサービス、行政責任)を含む。
(DMBOK2 p.100.)
「オムニチャネル実現のために顧客コードを統一し・顧客マスタを統合する」と、あるプロジェクト担当者が宣言したとしても、それだけでデータガバナンスを実施していることにはならない。顧客コードの統一は、顧客データを活用する上で必要であり、多くの組織を巻き込むことになる。
一見ガバナンスしているように受け取れるかもしれないが、以下のことが不足している。
たとえば、立法の視点では、「顧客コードを統一すべきというルール」が、他のプロジェクトや組織が従うべき法律としてオーソライズされていない。
あるいは、司法の視点では、仮にルール違反があったとしても、この担当者が違反者を叱ってルールに従わせることはできない。担当者にはそのような取り締まりの権限が与えられていない。
データガバナンスはデータが適切にマネジメントされるようにすることであって、データマネジメントを直接実施するわけではない。そもそもデータガバナンスとは職務を監督側と実行側に分離することである。
(DMBOK2 p.99.)
プロジェクト内で顧客コードを統一し、顧客マスタを統合するプロセスは、通常のデータ設計・維持プロセスである。プロジェクト担当者が自分の仕事をしただけでは、データガバナンスプロセスを実行したことにはならない。
ここで言うガバナンスプロセスとは、
- データを扱うルールを決め
- それを関係する実行組織(プロジェクトや現業組織でデータを扱う人達)に周知し
- 必要であればルールの守り方をガイドし
- 違反があれば取り締まり、
- 改善されるまで見届ける。
それらの行為である。
データガバナンスとは、実行組織とは別のガバナンス組織をつくり、ガバナンスプロセスを実施することである。
正式なデータガバナンス・プログラムが導入されれば、より明確な意図のもとに職務権限と統制を行使できるようになる(Seiner、2014)。これによりデータ資産からより高い価値を得ることができる。
(DMBOK2 p.94.)
データを扱うルールが何もなく、単に顧客データを登録・利用しているだけであっても、「データマネジメントは実施されている」とみなせる。ただし、データマネジメント成熟度は最低レベルであり、マネジメントしているという意識はない。
オムニチャネル実現に必要な顧客データの統合という「より明確な意図のもと」でデータを扱い、違反があればガバナンス組織が統制することは、「データ資産からより高い価値を得るため」に当然のことである。
データガバナンスが必要な理由はまさにこの点にあり、結果としてデータマネジメントの成熟度を向上させることになる。
ここまでの内容を簡潔にまとめると、データガバナンスを理解するポイントは、
次の3点に集約される。
- データガバナンスの目的:データマネジメントを改善することで、データ資産からより高い価値を得るため
- 組織構造:立法・行政・司法といった役割の配備、および実行組織とガバナンス組織の分離
- プロセスの違い:通常のデータ設計・維持プロセスとガバナンスプロセスは異なる
本ブログでは、リファレンス&マスタデータに関する具体例を使ってデータガバナンスを説明したが、データガバナンスの範囲はこれに限らない。
DMBOK2に記述されているナレッジエリアすべてに、それぞれの統制ルールがあり、それぞれのデータガバナンスが存在する。
データガバナンスはデータマネジメントのアクティビティを改善するメタアクティビティであり、すべてのナレッジエリアの質を向上させるので、DMBOK2のデータマネジメントフレーム(円形)の中心に位置付けられている(と筆者は考えている)。