IRM UK主催のデータガバナンス・カンファレンス(Master Data Management & Data Governance Conference Europe 2023)in ロンドン 参加レポート

データマネジメントに浸る4日間

IRM UK(※1)では年数回、マスタデータマネジメント(以下、MDM)やデータガバナンス、データアーキテクチャなどをテーマにカンファレンスを開催しています。このカンファレンスでは、ユーザ企業による事例紹介やデータマネジメントの専門家による研究内容の講演、また各参加者が抱える課題を話し合うワークショップなどが行われています。

今回は、MDMとデータガバナンスの2つをテーマに、前半2日間はユーザ企業や各データマネジメント領域の専門家による発表、後半2日間はワークショップという構成で開催されました。

全体で200名を超える方が参加され、IRMUKの人気の高さを感じました。イギリスを拠点としたトレーニング専門組織ということで大半は欧州の方ですが、日本からの我々のグループも含め、アジアからも数名が参加されていました。

(※1)IRM UK:イギリスのビジネス・ITトレーニングの専門組織https://irmuk.co.uk

会場ロビーの様子 
青を基調としたライトアップの元、参加者同士で賑わってます

ユーザ主体の事例発表

カンファレンスの前半では、約10の基調講演と25のセッションが行われ、どれも立ち見が出るほどの好評ぶりでした。その中でも、特に優れたユーザ事例を発表した企業を、”Data Governance Awards”として表彰していました。受賞した企業(Volvo penta社)の担当者は、「ビジネス側とタッグを組んで、常に顧客視点でデータ利活用に取り組んだことが成功の秘訣であり、今回の受賞に繋がった」と述べていました。また、日本のカンファレンスでは見られないような発表もありました。自社の事例を単に紹介するだけではなく、小道具を使った寸劇(船主マダムと雇われ船長の物語)も交え解説するなど、楽しく分かり易く伝える工夫が随所にされていました。このような発表のおかげで、会場は終始和やかでした。


Data Governance Awardsを受賞したVolvo penta社の発表

専門家による概念や方法論の紹介

MDMとデータガバナンスに関する学術的な解説もさることながら、内容に関して全体的に以下2つの特徴があったように感じました。

1つ目は、MDMとデータガバナンスがテーマでありながら、多くの専門家がデータ品質やメタデータの重要性に触れながら解説していた点です。例えば、皆さんは「メタデータの品質」について考えたことはありますか?David Plotkin氏によると、「データガバナンスを語る上で、メタデータの話題が必ずつきまとう。メタデータの品質について議論されることは少ないが、データ品質の向上と同じくらい、メタデータ品質の向上は重要な取り組みだ」とのことです。データ品質要求事項やデータプロファイリング方法、データ品質測定結果などは全てメタデータであり、これらメタデータの品質が低いと、データの実態を誤解し、誤ったデータ利用に繋がってしまいます。「データを正しく理解し、利用し、正確な意思決定を行うためには、高品質なメタデータが必要である」と同氏は強調していました。

詳しくは、こちらのブログをご覧ください。

2つ目は、多くの専門家がMDMとデータガバナンスの実行において、いかにビジネス側の関与が重要か、どのように説得して巻込むと良いか、を説いていた点です。いくつか代表的な講演タイトルと内容のエッセンスをご紹介します。

『MDMとデータモデル‐その価値を業務ユーザへ伝えよう』 by Daragh O Brien

「それ(MDMとデータモデル)とは何か」ではなく、「それで何かできるのか」、ここに彼ら(業務部門)の興味がある。説明する際は、彼ら(業務)の言葉を用い、彼ら(業務)が抱える痛み(課題)を理解することが重要である。

『データ品質活動‐それは防衛線である』 by Michael McMorrow

データガバナンスにビジネス部門を巻き込むにはどうすればよいか?データ品質管理であれば、「データ品質管理の実施とモニタリング」と呼ばず、「リスクを軽減させる活動=防衛線」と呼ぶなど、ビジネスの用語に置き換えることが重要である。

『マスタデータ管理におけるデータガバナンスの役割』 by David Plotkin

名寄せを実施する際は、ビジネスデータスチュワードが保持しているデータに対する業務知識(メタデータ)や現状データに対する理解(データ品質)、名寄せ精度(偽陽性と偽陰性)に対する感度の方が、ITツールの性能より重要である。

『マスタデータ管理におけるデータガバナンスの役割』(The Role of Data Stewardship in Master Data Management)を発表するDavid Plotkin氏

充実のワークショップ

カンファレンスの後半では、約10のワークショップが行われました。短いコースで3時間、長いコースは7.5時間と、どれも密度の濃いワークショップでした。
ここでも、MDMやデータガバナンスに求められるデータ品質やメタデータに関するテーマが多く取り上げられていました。
我々はDavid Plotkin氏のワークショップ「Complete Guide to Data Stewardship」に参加しました。同氏の著書(※2)のガイド的な位置付けで、データガバナンスの実践には欠かせない、データスチュワードシップの組織構造や役割に重点を置いた講義が行われました。どのような人が任命されて、どのような役割を担うべきか、参加者ごとに事情が異なるため、活発なディスカッションが行われました。データの説明責任を持つビジネスデータスチュワードやITをサポートするテクニカルデータスチュワードなどを配置し、データガバナンスの体制を組織作るという理想型はあるものの、適切な人財を探して任命し、現実的に組織として形成していく道のりは簡単ではなく、グローバルでも共通する課題のようです。

(※2)「Data Stewardship: An Actionable Guide to Effective Data Management and Data Governance」David Plotkin氏著

ワークショップ開始前の様子(皆少し緊張気味か!?)
David Plotkin氏(中央)との記念撮影

DMBOK+αが学べるカンファレンス

4日間を通した印象として、意外にも、DMBOKというキーワードはさほど多く聞かれませんでした。とはいえ、マスタデータやデータガバナンス、データ品質やメタデータ管理といったDMBOKで体系化されている知識領域がベースとなっており、それぞれの企業がビジネス戦略を実現するためのデータを特定し、それらに必要なアプローチを十分に検討した上で、データガバナンスやデータ品質維持の活動に取り組んでいることが窺えました。

また多くの専門家が、特定のデータマネジメント領域に焦点を当てるものの、他領域の要素も取り入れながら解説しており、とても勉強になる有意義なカンファレンスでした。個々の内容については、また別の機会で触れてみたいと思います。

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