Marilu Lopez氏著「データ戦略の策定」のご紹介

(特別寄稿:DAMA日本支部会長 木山 靖史)


今回、この「データ戦略の策定」を翻訳し、日本語版が8月10日付で米国のTechnics Publicationから出版されました。なぜこの書が必要とされているのか、解説されているデータ戦略策定のPACメソッドとは何かについてご紹介いたします。
本書の書名に長いサブタイトルがついています:
データ戦略の策定 データガバナンス確立のために データマネジメント推進のための、PRAGMATIC(実践的)、AGILE(アジャイル)、COMMUNICABLE(共有可能)な基盤の構築

翻訳の背景

DAMA-DMBOK(データマネジメント知識体系ガイド。最新版は第2版改訂新版。2024年7月日経BP社。以下DMBOK2R(全671ページ)を日本に紹介し、研究する活動を長年続けてきました。最近は「DMBOKを参考にし、データマネジメントの導入を推進しています」とお伺いすることも多くなりました。翻訳に携わった者として大変嬉しいことです。

ただDMBOKは、データマネジメントに関係する領域とトピックスを網羅し、何を(What)、なぜ(Why)取り組むのかについてよく教えてくれますが、どのように(How)取り組むのかのアクティビティについては粗い記述にとどまっています。

このHowの部分について、実践を重ねた経験豊かなコンサルタントたちがガイドブックを出しています。これらの実践ガイドは初版から高い評価を得ていて、実践を通したフィードバックを得て第2版となり、さらに充実したものになりました。DMBOK2Rを補完するこれらの良書を翻訳し、日本のデータマネジメントプロフェッショナルにお届けしたいと思ってきました。

データマネジメントはビジネスニーズから

これらの良書には共通点があります。先ずデータマネジメントはビジネスの必要性から開始されるということです。データマネジメントにはコストがかかるので費用対効果が問われます。なので最初にデータの現状を把握し、ビジネスにとって最重要な分野で、最重要なデータから取り掛かるとしています。このデータのことを重要データ要素(CDE:クリティカル・データエレメント)と呼んだり、重要なビジネスデータエレメント(KBDE:キー・ビジネス・データエレメント)と呼んだりしています。どのデータも等しく重要ではないのです。このKBDEが抱える、データの問題に起因するビジネスの課題を解決して、費用対効果を証明しながら必要な範囲に取り組みを拡大していきます。

DMBOK2Rの構成

DMBOK2Rは大きく分けてデータそのものについての知識領域と、データを扱うことについての知識領域と、データマネジメントについての知識領域の3つに分けることができます。データを扱う基盤と言われるピカピカのツールを導入して、フレームワークを参考にしてデータマネジメントの体制をトップダウンで組んだとしても、肝心のデータそのものの品質がビジネスのニーズを満たさず、セキュリティも担保できないとしたら、データマネジメントに取り組む価値はありません。なお、データセキュリティのポリシーはビジネスユーザーが決める必要があり、ビジネスユーザーとして守るべき行動基準もありますが、その実装はかなり高度なIT専門領域となっています。

<データそのものについての知識領域>

13データ品質、07データセキュリティ ←データマネジメントの直接的な目標

02データ取扱倫理、04データアーキテクチャ、05データモデリングとデザイン、09ドキュメントとコンテンツ管理、10参照データとマスターデータ、12メタデータ管理、

<データを扱うことについての知識領域>

06データストレージとオペレーション、08データ統合と相互運用性、11データウェアハウジングとビジネスインテリジェンス、14ビッグデータとデータサイエンス

<データマネジメントについての知識領域>

01データマネジメント、03データガバナンス、15データマネジメント成熟度アセスメント、16データマネジメント組織と役割期待、17データマネジメントと組織の変革

データ品質

ビジネスが求めるデータ品質を設定しそれを維持することこそが、データマネジメントの目的であると言っても過言ではありません。DMBOK2R第12章データ品質(全52ページ)の実践の書が、Danette McGilvray著の「データ品質プロジェクト実践ガイド 質の高いデータと信頼できる情報を得るための10ステップ」(全640ページ)です。2008年に初版、2021年に第2版となりました。翻訳に携わることができ、日本語版が2024年12月に日経BP社から出版されました。

実践されるデータマネジメントとデータスチュワードシップ

この分野については、David Plotkinが「データスチュワードシップ データマネジメント&データガバナンスの実践ガイド(全279ページ)」を2014年に初版、2021年に第2版として出しています。日本語版はMetafindコンサルティング社にて翻訳され、2024年7月に日経BP社から出版されました。データスチュワードシップというタイトル通り、データガバナンスを担い、データマネジメントを実装するための組織と役割について豊富な事例と共に詳しく述べられていますが、その体制で実施するデータマネジメントの内容も具体的に記載されています。

ビジネス戦略に基づくデータ戦略

DMBOK2Rにはデータ戦略という言葉があちらこちらに書かれていて、ビジネスと関連させることが強調されています。ただデータ戦略そのものについての記述はほんの数行のみ。ビジネスと連携したデータ戦略とは何で、どのように策定すれば良いのか。その問いに答えてくれるのがMarilu Lopez著「データ戦略の策定 データガバナンス確立のために データマネジメント推進のための、PRAGMATIC(実践的)、AGILE(アジャイル)、COMMUNICABLE(共有可能)な基盤の構築(全201ページ)」です。データマネジメントの入り口として一番重要なビジネス戦略との整合について、ようやく実践の書をお届けすることができました。本書も今後実践が積み重なり、フィードバックを得て第2版が出版されることでしょう。

データ戦略の策定

データ戦略とは、データ戦略フレームワークで示される複数の戦略で構成される戦略群としています。

データ戦略フレームワーク:
データ戦略フレームワーク
データ整合戦略:

組織がビジネス戦略を実行するために必要なデータを特定し、組織が必要としているものと現状にギャップがある場合はそのギャップに対処する、そのための戦略です。

データマネジメント戦略:

データ整合戦略に基づき、どのデータマネジメント機能領域(DAMAホイール)から取り組むか、その優先順位をつけるものです。一度(例えば初年度)に取り組むのは3つの機能領域までとガイドしています。そのうちの1つは常にデータガバナンスなので、残りの2つを選定することになります。それぞれの機能領域の短期、中期、長期の目標を設定します。

データガバナンス(機能)戦略:

データガバナンスを担うチームの役割期待を明確にし、実装するための戦略です。達成すべきケイパビリティ、体制、対象、組織のスコープ、評価尺度について短期、中期、長期の目標を設定します。

個々のデータマネジメント機能戦略:

データガバナンス以外の残りの2つについて、それぞれの機能領域毎にデータガバナンス戦略と同様に短期、中期、長期の目標を設定します。

年度毎の戦略更新

初年度に策定したデータガバナンス戦略と残り2つの機能領域戦略は、ビジネスニーズの変化に応じて年次で見直す必要があります。また、残りの機能領域も逐次必要に応じて追加していきます。その見直しを具体的に説明しているのがデータ戦略サイクルの10ステップです。

データ戦略サイクルの10ステップ

本書の特徴

まずデータマネジメントの取り組み度合いをケイパビリティベースで認識することです。具体的にはデータマネジメント成熟度モデルを利用して、そこで定義されている取り組みレベル毎の成果物をベースにします。成熟度モデルはいくつかのフレームワークがありますが、推奨されているフレームワークはEDMカウンシルのデータマネジメント・ケイパビリティ・アセスメントモデル(DCAM)です。

次に各戦略策定に、Alex Osterwalderのビジネスモデル・キャンバスを活用することです。これを戦略毎にカスタマイズしています。ビジネスモデル・キャンバスは説明する対象を1枚の用紙(キャンバス)にまとめる手法で、これにより戦略のエッセンスと、戦略の関係を把握することが容易になるメリットがあります。つまりあまり書き込みすぎない、ということですね。

PACメソッドは、戦略群、ビジネスモデル・キャンバスのセット、年次見直しの10ステップの3つで構成されます。

データマネジメントの学習をどう進めるか

まだご紹介したい海外の良書がいくつかありますが、1.DMBOK2R 2.データ戦略の策定、3.データ品質プロジェクト実践ガイド、4.データスチュワードシップ、の4冊で、データそのものについてのデータマネジメントとその実践のステップが出揃いました。とは言え全部合わせると約1,800ページ、4万円弱の支出になりますね。まぁ、データマネジメントの実践はこのくらい大変だ、とも言えます。先ずDMBOK2Rのデータそのものについての領域を以下の順にお読みください。07データセキュリティはちょっと置いておきます。

02データ取扱倫理(20ページ分) → 12メタデータ管理(32ページ分) → 04データアーキテクチャ(26ページ分) → 10参照データとマスターデータ(36ページ分) → 05データモデリングとデザイン(50ページ分) → 09ドキュメントとコンテンツ管理(44ページ分) → 13データ品質(52ページ分)

全部で260ページ分になります。これで機能領域毎のWhy(なぜ取り組む必要があるか)、What(重要な概念)を学んでいただき、その後実践の書3冊(1,120ページ分)にお進みください。繰り返しになりますがデータ戦略(201ページ分)、データ品質(640ページ分)、データスチュワードシップ(279ページ分)です。この3冊はオーバーラップする部分もあります。今後DAMA日本支部の活動としてこれらを整理してお伝えできるよう、工夫してまいります。

なお、「データ戦略の策定」のお買い求めですが、Amazon日本の他、pdf版でよろしければ以下のTechnics Publicationsのサイトから購入、ダウンロードでき、25%オフのクーポンコード(TP25)が使用できます。ぜひこの機会にご購読ください。

https://technicspub.com/data-strategies-for-dg