データマネジメントを支えるデータスチュワード
企業でデータマネジメントのリーダーシップを執る役割として、CDO(チーフデータオフィサー)が知られるようになってきました。しかし、CDOを支え、現場でデータマネジメントを実施する役割は、あまり注目されていません。そうした役割のひとつ、データスチュワードについて紹介します。
●データスチュワードとはなにか
DMBOK2ndでは、データスチュワード(Data Steward)は次のような活動に取り組むとしています。1
1では、なにを重要なメタデータとするか決めて、その値と意味を定義し、管理します。
2のルールと標準には、データとその品質に関するものだけではなく、業務に関するルールも含まれます。業務ルールが明確でないと、そこで作られるデータの品質を保証するのは難しくなります。
3では、データ品質の課題を特定し、解決に取り組みます。
4では、全体最適化の視点を持って、プロジェクト等の個別活動を統制します。
以前ご支援したサービス業のお客様で、こうした活動すべてに取り組まれている方にお会いしたことがあります。基幹システムの運用保守を担当されていたその方は、20年近く、隙間時間を使って全社で使われている業務用語を整理し、主要な業務フロー図を維持メンテナンスされていました。各支店から送られてくる売上や勤務実績の値に異常値がないか経験に基づいて確認し、また、ばらばらのファイルフォーマットの標準化を進めていました。
読者の皆さんも、1~4の活動のうちどれかひとつには関わった経験があるのではないでしょうか。
●データスチュワードの役割と権限を明確にする
データスチュワードの活動は組織内で明確に割り当てられず、IT部門の保守担当の人に依存することが多いです。そのため、人の異動や退職によって企業全体のデータマネジメントがうまくいかなくなることがあります。
また、データスチュワードの権限が明確でないと、プロジェクト等の個別活動を統制するのが難しくなります。
前述のサービス業の担当者の方は、新パッケージ導入を進める会計部門に、全社最適のデータ構造を守ってもらおうとしました。しかし彼は会計部門の所属ではなく、プロジェクトメンバでもありませんでした。できるだけ時間を作っては打合せに参加したものの、プロジェクトの再優先事項はパッケージの短期導入になっていました。その結果、新しいパッケージ独自のデータ構造ができて、基幹系システムとのデータ連携処理が複雑になってしまいました。ボランティアでは、データマネジメント活動を維持継続するのは難しいです。
海外では、データスチュワードとしての役割と活動が、職務として雇用契約に記載されるため、退職によって社内からデータスチュワードがまったくいなくなることはないようです。加えて、データスチュワードを社内職種として明確にすることで、彼らに権限を与え、活動を保証する動きも進んでいます。
日本企業でも今後、データマネジメントを推進するためには、社内でデータスチュワードの役割を明確にし、その活動を周知するべきでしょう。また、全社最適化の視点を持ち、時には部門間の調整ができるだけのポストを用意する必要があるでしょう。CDOを設けている企業では、CDO室などのデータガバナンス組織の一員とするのもいいかもしれません。
●まとめ
データスチュワードは、企業データの現状を理解し、あるべきデータを定義し、品質を維持向上させます。また、それらを実施するのに必要な統制を全社視点で行います。
日本のデータマネジメントは、現場の自主的なデータスチュワード活動に頼ってきました。しかし、自主活動によって全社に最適なデータマネジメントを進めるのは限界があります。部門間調整ができるような適切な権限とポストを用意するべきです。
CDOに代表されるリーダーシップだけでなく、スチュワードシップをデータマネジメント体制に組み込むことを、忘れないでください。
- (Dama International (2017). DAMA-DMBOK: Data Management Body of Knowledge (2nd Edition) Technics Publications Llc., p.76)より一部筆者訳。 ↩