データ開放戦略
最近の日本経済新聞は「データ経営」に関する記事が多く興味深い。
3月9日の紙面では「ドコモ、7000万人データ開放」の記事。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42214770Y9A300C1MM8000/
NTTドコモ社が、dポイントの会員情報を協業先企業に活用してもらう事業を始めるようだ。
3月11日の紙面では「情報銀行、データ保護が要」の記事。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO42202980Y9A300C1TCJ000/
個人データを預かり、民間企業などに提供する「情報銀行」が2019年から本格的にサービスを開始するようだ。業界団体の日本IT団体連盟(https://www.itrenmei.jp/)が一定条件を満たす情報銀行を認定する制度を推進中で、3月下旬にも最初の認定事例がでる見通しと言う。
これまでの実証実験として、大日本印刷、JTB、三菱UFJ信託銀行などの名前が挙がっていた。
これらの動向は、GAFAの戦略と比較すると、その特徴が良くわかる。
GAFAは自社が顧客を囲い込む手段として会員情報を使う。中には売れ筋商品を見つけて、GAFA自身が同類商品を売り始めるケースもある。経営資源としてのデータは、徹底して自社の強みを伸ばすために使われる。
GAFAの囲い込み戦略に対して、上記2つの事例はデータ開放戦略と言えよう。
データそのものが一種の売り物としての価値を持ち、データ開放企業は協業先と消費者の間をとりもつファシリテーターのような役割を果たす。
ところで、この記事を読んだときに「戦略的データマネジメント~企業利益は真のデータ価値にあり~(著:トーマス・C・レドマン)」という書籍を思い出した。(https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798120805)
約10年前に発売された本であるが、その当時「データ活用の一種として、データを販売する例」が含まれていて、衝撃を受けた。
それまでの私の経験では、データ管理の主たる目的は次の3つと思っていたからだ。
1つ目は、システムづくりのため。
2つ目は、経営者や業務部門がビジネス世界で起きている物事を可視化・共有し、業務改善するため。
3つ目は、未来を予測し次の打ち手を選択するため。
データを売って利益を得るというのは、特別な会社の話であって、すべての企業が考えることではないと認識していた。
レドマン氏が得意とする領域は主に金融業界であったので、株価に影響を与えるような価値あるデータを売るという話は素直に理解できた。しかし、データをマネタイズする活動がすべての企業に広がるとは、その当時、私には遠い将来に思えた。
この書籍の中で、その点を記述している箇所があるので紹介する。
「企業が投げかけるべき質問は、『当社はコンテンツビジネスに参入すべきか』ではなく、『当社のコンテンツ戦略は何か』ということだ。最も重要なのは、市場の需要と機会、販売可能なデータ、そして提供できるデータ品質の交わる所にある『絶好の市場機会』を見つけ出すことである」
NTTドコモは、個人の許可を得た上で「買い物データ」などを開放することによる新しい利益モデルをつくろうとしている。
多くのメーカは、一般消費者と自社との間に、販売代理店や小売店が入ることが多く、本当の顧客動向をつかまえにくい状況になっている。メーカは今後、NTTドコモや情報銀行のようなデータファシリテーターの協力を得ながら、新しいマーケティング方法を模索し、新商品を共創することをめざすだろう。
将来、GAFAの囲い込み戦略とデータ開放戦略のどちらが伸びるであろうか。
データオーナである会員の心配を取り除き、また法律にも準拠しながら、
新しいデータビジネスが成功することを願う。