地図データ競争に勝つのはだれなのか

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3月21日の夜から、SNSのタイムライン上でGoogleマップへの言及が急増しました。
「道路上に建物はみ出ている」、「家の前のバス停が消えた」、「自宅への経路を探索すると、お隣さんの敷地を横断してしまう」 などなど。
やがてSNSに「前日まではGoogleマップ上に”ゼンリン”の記載があったのに、不具合以降無くなっている」という投稿があり、以後両社の地図におけるこれまでの契約と、今後想定される競争関係についての記事が何本も書かれています。

グーグルマップに不具合 ゼンリンとの契約に変更か
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42830880T20C19A3EA5000/
日本経済新聞 2019/3/23

「日本の地図を作っているのは俺たちだ!」 グーグルマップ混乱でわかった「ゼンリン」の底力
https://bunshun.jp/articles/-/11476
文春オンライン 2019/04/21

ところで地図データ(地理情報とも言います)と聞いて、みなさんはなにを想像されますか?町中の建物の外形、道路のネットワーク、それらの名称・説明や評価、または通行する上での制限や法律などなど、人によってイメージされるものは違うかもしれません。
このブログでは、建物や道路などの実世界にあるモノでその形を紙や画面に描画できるものは「地物」、地物の名称・説明や制限を「性質」と呼びます。1

地図作りとは、地物と性質のデータを収集し、整理統合し、最新化する作業です。ただ地図を作成している企業は、ゼロからデータを収集しているわけではありません。伊能忠敬は全国を歩いて実際に測量して地図を作りましたが、現代日本で実測をしてデータを収集しているのは国土地理院や各地方自治体です。
地図作成企業は、こうした機関が作成した全国地図や都市計画図を基に、次の3つの作業を経て地図を作成します。

  1. 地物データの統合
  2. 性質データの付加
  3. 差分データの更新

1. 地物データの統合

同じ地域の地図でも、縮尺が違えば地物外形の精度が変わります。
また、三次元球体の実世界を二次元の平面に表現する方法が違えば、同一地域の同一縮尺の地図でも建物や道路の形は一致しません。たとえば札幌基準の地図と那覇基準の地図では、東京駅の外形は微妙にずれてしまいます。
地図会社はこうした異なる地図を調整し、統合しています。そのため「地図調整業者」と呼ばれたりもします。
さて、国土地理院と都市計画図だけをソースとして利用するなら、どの調整業者の地図も差はでません。次のふたつの作業が地図業者毎の付加価値を生んでいます。

2. 性質データの付加

地物の統合が終わっても、その地物が表すものがなにかの説明が必要です。建物には名称だけでなく、市役所やオフィスビル、ショッピングセンターといった役割が必要です。道路であれば、歩道や自動車道といった役割の他に、様々な交通規制などの制約を加えます。
こうした性質データのうち、なにに焦点をあてるかによって、地図に特徴がでます。
たとえばゼンリンは、昔から詳細な建物や店舗の名称、交通規制を収集してきました。二次情報ではなく、実際に専任の調査員が現地を歩いて確認した情報なので精度が高く、信頼できます。
Googleだけでなく、他の企業が日本国内で同じように調査員を雇い、精度の高いデータをゼロから収集するのは難しいでしょう。なので、こうした名称や役割、規制の性質データについては、ゼンリンがGoogleに勝っています。
ただ、Googleはマップ上でユーザが直接クチコミを投稿し、店舗などの評価ができますが、ゼンリンはできないようです。クチコミデータでは、Googleが勝っていると言えるでしょう。

3. 差分データの更新

日々、実世界で建物が建てられ/壊され、道路は開かれ/塞がれ、地形は変化します。そのために、現実と地物データの間に差分が発生します。国土地理院や地方自治体がデータを更新するサイクルは年単位と長いので、ただ待っていると地図が古びてしまいます。
ゼンリンは前述の調査員によって、地方自治体よりも短いサイクルで定期的に地物の変化を更新します。ただし、調査員が気づかなかったものは漏れてしまいますし、短いと言ってもある程度時間がかかります。
一方Googleは、航空写真や衛星写真をソースに、自動的に地物を抽出し、既存地図に反映させるシステムを作りました。このシステムが日本に導入されたのが、問題となった3月21日です。それ以前の地図は差分データにゼンリンのデータを利用していたようです。
ただ、ソースの写真が歪んでいれば抽出した地物情報も歪みます。冒頭に述べた、道路と地図が重なってしまったのは、歪みの補正が不十分だったのでしょう。またバス停等の一部地物が消えたのは、ゼンリンから提供されていた差分データだったからでしょう。

 

今回の不具合だけ見ると、ゼンリンの精度の高さが目立ちました。ただ地図データの鮮度については、今後はGoogleの方が高くなっていきそうです。
地図データの品質は精度だけでは決まりません。地図上の道路が実世界より歪んで見えても、「そこに道がある」という鮮度の方が重要になることもあります。こうした考え方の違いは対立ではなく補完的です。一方の視点に偏ったものは、良い地図とは言えないでしょう。
なので、私は地図データを持つ企業や団体は、競争するのではなく今後も協力し補完していく関係が続くと思います。
あるいはみなさんの会社のデータのなかにも、将来地図データとして利用して、新しいビジネスにつながるものがあるかもしれません。次回は、地図関連会社ではない企業が作った地図データついて取り上げたいと思います。