データマネジメント効果の定量化

データマネジメントの活動は、経営者や業務ユーザからはいわゆる“裏方の活動”と思われがちです。そのため企画を承認してもらうにあたり、彼らにデータマネジメントによる効果を上手く伝える事ができず苦労している皆さんも多いと思います。具体的にどの程度の効果があるのか、また、活動しないことによりどのようなリスクがあるのかを理解してもらうためには、それらを具体的な数字で見せることが重要です。そこで今回は、データマネジメントの効果をどのように定量化すればよいかについて考えてみようと思います。

データマネジメントは、データの資産価値を高める活動と言われています。すなわち、データそのものの価値がどの程度高めることができたのかを測ることができれば、おのずとデータマネジメントの効果は定量化されるはずです。とはいっても、データを直接売買しているわけではないので、個々のデータが幾らの価値を持つのか、実際に評価することは難しいのが実情です(一部のデータは企業間で取引されていたりしますが)。

DMBOK2(https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/18/270160/)ではどのように定義されているでしょうか。実はDMBOK2でも「データに金銭的価値を与えることは難しい(P119 第3章データガバナンス 2.16 データ資産評価の支援より)」との見解を示しています。そこでDMBOK2では、データを見積るのではなく「不十分な情報により生じる業務上の損失額を見積もってはどうか」と提案しています。では、具体的にどう考えればよいでしょうか。

業務上の直接的なリスクを見積もる

不十分な情報のおかげで、組織は業務をする上で直接的なリスクを被る可能性があります。例えば、ある在庫拠点の拠点コードが複数に分かれて採番されていたとします。このままだと、その在庫拠点のトータルの在庫数量は正確に把握できません。さらに、この状態のままで生産計画を立てようとすると、この在庫拠点は余剰在庫を抱えてしまうかもしれません。別の例でも考えてみます。顧客とのサービス契約のデータについて、契約開始日はしっかり入力されている一方、終了日にはかなりの入力モレがかなりあったとします。契約終了日が近づいた顧客に対してコールセンターから営業活動を行おうとした場合、契約終了日が未入力の顧客に対してフォローができず、継続受注の機会を逸してしまいます。このように、不十分な情報から組織が起こす不適切な行動を想定し、その損失を具体的に見積もることで一定の定量化ができると考えられます。

ギャップを埋めるための間接的なコストを見積もる

業務上の直接的なリスクは、組織で既に認識されていることも多く、コストを掛けて何らかの手が打たれていることもあります。先に例示した在庫拠点あれば、拠点コード毎に出力された別々の在庫表を手作業で集計し直しているかもしれません。また契約終了日の例であれば、同項目が未入力である顧客の営業担当者に都度電話し、正しい日付を確認している可能性もあります。DMBOK2では、こうした作業について、以下のように紹介しています。「必要とされる情報と実際に入手できる情報には、ギャップが存在する。そのギャップを埋めたり無くしたりするためのコストは、欠落した業務価値を見積るために利用できる。(同P119より)」

ところで、リスクやコストといったネガティブな側面ばかりでなく、売上機会の向上のようなポジティブな側面からも定量化を考えてもよいと思います(例えば、顧客属性を充実化することでクロスセルの機会を向上させる、等)。ただ現行データのまずさ加減を下敷きにできるリスクやコストの方が、定量化も考えやすく、周囲からの納得感も得られやすいように思います。

最後に

データマネジメント効果の定量化のヒントになったでしょうか?なお、企画を通すために定量化するだけではなく、是非とも活動後に効果が出ているかどうか、継続的に測定してみてください。一定の効果が証明されれば、関わった担当者のモチベーションを維持にもつながります。十分な効果が得られなかったとしても、その要因を分析し改善することで次の活動に結び付けていくことが大切です。“裏方の活動”を理解してもらうためにも、ぜひとも定量化に取り組んでみてください。