ルールでガバナンスするか、人でガバナンスするか
昨今、データドリブン経営の実現や、全社的なDXの推進などの潮流があり、それらの実現には常に正確で最適化されたデータの提供が求められています。しかし殆どの企業では、求められるデータの品質に達しておらず、データもサイロ化して存在しているのが現状です。そのような背景から、組織的にデータガバナンスに取り組み始める企業が増えてきました。
2つのデータガバナンスアプローチ
各企業のデータガバナンスは、大きく2つのアプローチに分かれています。
1.ルール中心でガバナンスする
こちらは、データガバナンスチームは専らルールやガイドラインの整備を行い、その遵守は現場サイドに委ねるアプローチを指します。ルールの中で守るべき事項を明確に定義することで、設計品質やデータ品質を一定広範に確保できます。ただし、全社規模でルールを策定すると汎用的なものにならざるを得ず、現場の事情に柔軟に対応できない場合も生じます。また、ルールの遵守が現場に委ねられているため、実際にどの程度守られているか把握が難しい側面も併せ持ちます。
2.人中心でガバナンスする
こちらは、ルールは方針レベルの簡素なものは準備するものの、データガバナンスチームから業務現場や開発プロジェクトに人員を派遣し、成果物レビュや設計支援を積極的に行うアプローチを指します。現場サイドの状況が理解できるため、ルールに記載されていない問題にも柔軟に対処できます。ただし、データガバナンスチームの人的リソースが限られることから、多くのプロジェクトに同時に関与するのは難しいのが実情です。さらに、派遣される人員の技量やリテラシーに依存せざるを得ず、派遣する人員をどう育成するか?といった難問も待ち受けています。
どちらのアプローチにも長所と短所が存在します。既にお気づきの通り、いいとこ取りができると良いのですが、両者をどのように使い分ければ良いでしょうか?
設計要素の比重が大きなデータガバナンス施策は人中心でガバナンスする
たとえば、MDM(マスターデータ管理)、データHUB、DWH(データウェアハウス)など、共通性が高いシステムやデータ基盤に関しては、人中心のガバナンスが適しています。これらは全体最適の視点から設計しなければならず、良い設計でないと周辺システムに悪い影響を及ぼす可能性があるからです。データの収集や変換、標準化方法などをガバナンスするには、現場への深い関与が求められます。同様に、グローバルサプライチェーンや経営ダッシュボード等、広範にデータを収集するシステムにも同じことが言えます。なぜなら、これらシステムも全体最適の視点で設計が行われることで、収集した貴重なデータ資産を別のビジネス用途にも利用できるようになるからです。このように、設計要素の比重が大きな施策はルール中心でガバナンスすることが難しく、人員を派遣して積極的に関与したほうが良い成果が得られます。
全社に一貫性や均一性を求めるデータガバナンス施策はルール中心でガバナンスする
たとえば、メタデータ管理に関してはルール中心のガバナンスが適しています。標準のドキュメントフォーマットに従ってデータを定義し、その内容をデータカタログに記録する。このように、守ってほしい内容が明確で、そのルールを守ることで、誰もが同じ品質の成果を享受できるような性質のものは、充実したルールを準備し徹底することで大きな成果が得られます。データセキュリティについても同様のことが言えます。機密データを特定し、その開示範囲を定め、利用者はその範囲でデータを利用する。一連の手順を厳密にルール化することで、コンプライアンス違反を防ぐことができます。
このように、ガバナンスしたい内容や、ガバナンス自体の性質を考慮し、ルール中心と人中心のアプローチを適切に組み合わせることが肝要です。データガバナンスチームを設置している企業でも、限られたリソースで活動しなければならないことが多いと思われます。リソースを効果的に管理しながらチームを運営することが期待されるので、上記を参考にされるとよいでしょう。