ビジネスデータスチュワードを支える3つの役割

データマネジメント&ガバナンスの実践ガイド

データスチュワードの役割は複数ある

書籍『データスチュワードシップ データマネジメント&ガバナンスの実践ガイド』では、複数のデータスチュワードの役割を定義しています。

  1. ビジネスデータスチュワード
  2. エンタープライズデータスチュワード
  3. リードデータスチュワード
  4. テクニカルデータスチュワード
  5. プロジェクトデータスチュワード
  6. オペレーショナルデータスチュワード

これだけの役割があると、名前だけで「こんなに必要なのか?」と驚かれるかもしれません。
ただし、2と3は、事業領域や部門を横断した調整が必要なときに、ビジネスデータスチュワードから選ばれるリーダー役とされています。日常的な役割は、前回紹介したビジネスデータスチュワードと変わりません。
一方で、4〜6の役割はビジネスデータスチュワードとは大きく異なります。今回は、これら4〜6の基本的な役割についてご紹介します。

テクニカルデータスチュワード

ビジネスデータスチュワードはビジネス上のデータの意味やルールを定義・調整するため、ビジネスに精通した業務部門のメンバから選出されます。

一方で、彼らが管理・調整を担当するデータは、さまざまなシステムに多様なデータ形式(テーブル/ファイル、構造化データ/非構造化データなど)で実装されています。
管理・調整のため、どこに何があるのか把握し、なぜ問題が発生しているかを理解するには、システムやデータ形式に関する専門的な知識が必要です。ただ、業務部門メンバがこれら全てを理解するのは難しいです。
そのため、ビジネスデータスチュワードが抱える技術的な疑問に答える役割が必要です。それも、「ちょっと今忙しいので、後で」と待たせるのではなく、必要なときにすぐ答えてくれる人が求められます。その人こそがテクニカルデータスチュワードであり、主にシステムに精通したIT部門から選出されます。

プロジェクトデータスチュワード

ビジネスデータスチュワードが調整すべきデータの問題は、システム再構築やデータ利活用のプロジェクトでよく発生します。
たった一種類のデータでも、複数のプロジェクトで使われる重要なデータだと、ビジネスデータスチュワードの負荷は増大します。
例えば、あなたが顧客データのビジネスデータスチュワードなら、あちこちのプロジェクトの会議に呼ばれてしまい、問題の調整や決定に時間を割けなくなるでしょう。プロジェクトごとに自分の代理人がいて、決定に必要な最低限の情報だけ報告してもらえたら、と思いませんか?
それを行うのが、プロジェクトデータスチュワードです。
ビジネスデータスチュワードほど詳細なデータ知識は必須ではありませんが、以下の視点と活動が求められます。

  • 担当するデータがプロジェクトで問題となっているか判断する
  • 同様のデータ問題が発生していないか、他のプロジェクトのプロジェクトデータスチュワードと情報交換する
  • 上記の内容をビジネスデータスチュワードに報告し、適切な決定を仰いで自分のプロジェクトにフィードバックする。

これらの要求に応えられるのであれば、プロジェクトデータスチュワードはIT/業務のどちらの部門のメンバから選ばれても問題ありません。適切に活動できるのであれば、プロジェクトのために契約した、外部ベンダのメンバでも良いです。
注意すべきは、管理・調整に関する決定を行うのは、ビジネスデータスチュワードだけだと言う点です。プロジェクトデータスチュワードには、こうした決定をする権限はありません。
プロジェクトデータスチュワードが経験を積むと、担当するデータの簡単な問題は自分で決定したくなることもあります。ただこうした決定は自分のプロジェクト固有の管理・調整のためのもので、他のプロジェクトのことも意識した、本来あるべきデータの管理・調整の決定とは違うので避けるべきです。

オペレーショナルデータスチュワード

書籍『データスチュワードシップ』では、「オペレーショナルデータスチュワードはビジネスデータスチュワードの“助手”である」と述べられています。
助手とは、ビジネスデータスチュワードの日常業務をサポートし、資料作成や調査を担うことを意味します。つまり、彼らもプロジェクトデータスチュワードと同様に、データに関する決定を自分では行いません。
彼らは、プロジェクト以外の日常業務で起こるデータ問題を把握し、ビジネスデータスチュワードに報告する役割も担います。例えば、日常業務のなかで顧客や製品のカテゴリに関する値を増やす場合や、業務が求めるデータの精度が突然変更された場合などです。
こうした変更をキャッチアップできるように、オペレーショナルデータスチュワードは日々のデータを収集・入力している現場の担当者が担うことが多いです。

複数の役割を分担して遂行する日々のデータガバナンス

これら3つの“データスチュワード”の役割がビジネスデータスチュワードを支えることで、ようやく日々のデータガバナンスが実現できます。
「データスチュワード」と言うと、これらのテクニカルな知識、複数プロジェクトへの参画、日々のデータ問題への細やかな気配りといった全てを、一人の責任者が担うように思われがちです。
実際にはそんなスーパーマンはいませんし、もしいたとしても長続きはしません。
現実的なデータスチュワードシップの導入アプローチとしては、今回紹介した3つの役割のように作業を分担することをお勧めします。