FACTFULNESS(ファクトフルネス)から学ぶ

ファクトフルネス
TumisuによるPixabayからの画像

意思決定バイアスの一環として、今回は書籍「ファクトフルネス」を取り上げる。
副題に「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」とある。

ファクトフルネス:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド共著、日経BP社、2019年
https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/19/P89600/

まず、書面で語られている10の思い込みは次のとおりである。

  1. 世界は分断されている(分断本能)
  2. 世界はどんどん悪くなっている(ネガティブ本能)
  3. 世界の人口はひたすら増え続ける(直線本能)
  4. 危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう(恐怖本能)
  5. 目の前の数字がいちばん重要だ(過大視本能)
  6. ひとつの例がすべてに当てはまる(パターン化本能)
  7. すべてはあらかじめ決まっている(宿命本能)
  8. 世界は一つの切り口で理解できる(単純化本能)
  9. 誰かを責めれば物事は解決する(犯人捜し本能)
  10. いますぐ手を打たないと大変なことになる(焦り本能)

本書で紹介される事象の多くは、世界の人口とその変動要素・生活水準(所得や病気、新しい機器の普及状態)・教育水準・気候変動(温暖化や自然災害)・世の中が良くなっているか悪くなっているか・事故や紛争などである。
前述の10の思い込みによって、世界の実態を正しく認識していない人が多いという主張が書かれている。数回にわたって私が取り上げてきた“意思決定バイアスに関する記事”と同様に、本書においても「誰もが無意識に自分の世界の見方を反映させて実世界を理解している」という点が問題とされている。
ちなみに、なぜこのような認識違いが発生するかについても、本書で言及されている。

たとえば、
アップデート問題:数十年前に正しかった知識を、現時点でも正しいものと記憶していたり、教えていたりする
偏った報道:良い事は報道されにくく、悪い事が報道される比率が高い
など。

10の思い込みごとに、なぜそのように考えるかの説明や改善方法が記述されているので、興味のある方にはご一読をお勧めする。

さて、データによって世界の生活水準などの実態を正しく把握できたとして、その結果が直接自分のビジネスと関係するこのブログの読者(たとえば、世界の貧困地域で融資事業を営む当事者)は少ないはずだ。多くのブログ読者にとって、本書の内容を自社のビジネスで活用する知恵とするためには抽象化が必要である。
私は、紹介された10の見方を、「誤った認識が起きやすいパターン」として記憶しておき、意思決定の際に是正できるように注意すべきと考える。
では、どのように是正するのか?その方法に言及している箇所があるので、次に引用する。

勘違いを見つけて、捕らえ、正しい理解に変えるには何が必要だろうか?答えはデータだ。
(途中省略) それだけでは足りない (注1) 。4つのレベル (注2) のようにシンプルながらも正確な思考法を身につけたときこそ、勘違いは消えてなくなる

(注1) ここでいう“それ”とはデータのこと。つまり、データだけ見ていたのでは足りないという意味。

(注2) ここで言う4つのレベルとは、世界の貧困問題を捉える際に、1人あたりの1日の所得に着目した分類(4レベル)で理解すること。
レベル1:2ドル未満
レベル2:2ドル以上
レベル3:8ドル以上
レベル4:32ドル以上
一般に、先進国と途上国のような2項対立でとらえがち。レベル4の世界にいる人々には、レベル1~3まではみな貧困に見えてしまうが、レベル1から2へ上げるための対策と、
レベル2から3へ上げるための対策は、やり方や性質が違う。
“4つのレベル”でこの問題をとらえなければ正しい対策は見つけられない。

誤った認識に陥らずに正しい思考法を獲得し、意思決定シーンで活かせるように、次のように手順化してみた。

第1に、興味の対象となる物事のデータを見つけ出す。
第2に、データから10の思い込みにとらわれないように事実を読み取る。
第3に、実態を説明するための新たな見方(データが語る世界)を思いつく限り列挙する。
第4に、列挙した複数の見方を比較し、自分の見方を相対化する。すなわち、自分の見方に固執しない自分をつくる。
第5に、意思決定に使うべき、もっともふさわしい見方を選ぶ。

ブログの文字数制限があるため、これらの作業1つ1つを説明するのは、別な機会に譲ることにするが、少しだけ触れておく。
第2のデータから事実を読み取る際には、相応の技術が必要となる。
たとえば、

  • 過去に正しいデータとして記憶したものが、現在も同様の傾向になっているかを確認する。すなわち、自分の思い込みを“自覚”し、事実を確認する。
  • 平均値や中央値で理解するだけでなく、ヒストグラムや散布図で全体像を理解する。
  • リスクに関しては、絶対値ではなく全体の比率や偏りを見て、相対的あるいは確率的に認識する、などである。

また、第3の新たな見方を発見する際には、クラスター分析などを使ってみる手もある。

まとめ

10の思い込みで世界を見るのではなく、データから得られる正しい見方で世界を見直すことが、良い意思決定につながると信じている。
良い意思決定者とは、自分の見方に固執することなく、複数の見方の中で自分の見方を相対化できる人である。
我々、データマネジメントに携わる者たちは、データが語る世界によって事実を可視化し、良い意思決定の手助けをしなければならない。